定性調査、いざやるとなると担当者によってやり方がバラバラだったり、インタビューで集めたたくさんの発言を前に「どう分析して、どうまとめればいいんだ…」と手が止まってしまったり。そんな経験はありませんか?
この記事は、そんな担当者の皆さんのための、実務で本当に役立つ情報をまとめた完全ガイドです。
いまさら確認しづらい用語の意味や英語の言い方、ビジネスの状況に合わせた定量調査との違いや目的ごとの使い分けまで、基本をしっかり押さえます。
調査の代表的な種類や手法であるデプスインタビューやグループインタビューをどう選ぶか、具体的なやり方や手順、全体の流れも解説。「対象者は何人が適切?」というサンプル数や人数の疑問にも、明確な根拠とともにお答えします。
さらに、相手の本音を引き出す質問例やオープンクエスチョン活用のコツ、そして調査のゴールである分析方法やまとめ方まで、一通りの知識が身につくように構成しました。
この記事で解決できる悩み
- そもそも定性調査とは何か、その目的が明確にわかる
- 定量調査との違いと、戦略的な使い分け方が理解できる
- 自社の課題に合った調査手法の選び方がわかる
- 調査の企画から分析・レポート作成までの具体的な手順が身につく
- 調査の質を左右する「良い質問」の作り方と分析のコツが学べる
この記事では、そのようなお悩みを解決するため、定性調査の基本知識から、明日から使える実践的な手順、そして調査の質を飛躍的に高める分析のコツまで、一連のプロセスを網羅し「完全マニュアル」として徹底解説します。
定性調査の「なぜ?」と「なに?」定量調査との違いまでを理解する

まずは、定性調査を成功させるために不可欠な基本知識を学びましょう。
定量調査との違いや、目的に合わせた手法の選び方、適切な人数設定の考え方を理解することで、調査計画の精度が格段に上がります。
- 1. 定性調査とは?基本的な意味と目的
- 2. なぜ必要?定量調査との違いと戦略的な使い分け
- 3. 目的で選ぶ|代表的な定性調査の種類と特徴
- 4. 何人に聞くべき?適切なサンプル数の考え方と根拠
1. 定性調査とは?基本的な意味と目的
定性調査とは、インタビューでの発言や実際の行動といった、数値では表すことが難しい「質的」な情報を集めて分析する調査手法を指します。
読み方は「ていせいちょうさ」であり、英語では「Qualitative Research」と表現されます。
より詳しい言葉の定義や言い換え用語、関連用語は、別記事「定性調査とは?|製薬業界の市場調査の基礎」でも解説しています。
この調査の根本的な目的は、人々の行動や意識の奥底にある「なぜ、そう思うのか」「どのように感じているのか」といった、深層心理やその背景にある文脈を解き明かすことにあります。
例えば、アンケート調査で商品の満足度が高いという結果が出たとしても、それだけでは「どの点が、どのように評価されているのか」という具体的な理由は分かりません。
そこで定性調査を通じて、利用者の生の声に耳を傾け、その言葉の裏にある感情や価値観、あるいは本人すら意識していないような行動を観察します。これにより、企業は顧客のインサイト(本音や洞察)に迫ることが可能になります。
主に、以下のような目的で実施されます。
消費者インサイトの把握
消費者が商品をどのように選び、利用し、評価しているのか、その理由を深く探ります。製品の真の強みを再発見し、マーケティングで訴求すべきポイントを明確にする上で、非常に有益な情報を得られます。
新たなニーズやアイデアの発見
消費者の何気ない一言や想定外の行動から、新しいビジネスチャンスの種を発見します。既存商品の改善だけでなく、全く新しいカテゴリーの製品を開発するきっかけにもなり得ます。
仮説の構築
大規模なアンケート調査などを実施する前に、市場や顧客に対する理解を深め、より現実に即した仮説を立てるために行います。精度の高い仮説は、その後の調査全体の質を向上させます。
このように、定性調査が目指すのは、数値の裏側にある人間のリアルな姿を理解することです。表面的なデータ分析に留まらず、顧客という一人の人間と深く向き合うための、不可欠なアプローチであると考えられます。
2. なぜ必要?定量調査との違いと戦略的な使い分け
定性調査の役割を深く理解するためには、しばしば対として語られる「定量調査」との違いを明確に把握することが有効です。
これら二つの調査手法は、どちらが優れているというものではなく、それぞれ異なる目的と役割を持っています。
例えるなら、地図と旅行記のような関係です。定量調査が「どの都市に何人の人が住んでいるか」を正確に示す地図だとすれば、定性調査は「その都市の人々がどのような生活を送り、何を感じているか」を描写する旅行記にあたります。
定量調査は、アンケートに代表されるように、多くの人から数値や数量といった「量的」なデータを収集し、市場の全体像や実態を統計的に把握することを目的とします。「A案とB案ではどちらが支持されるか」「ターゲット層の何パーセントが商品を知っているか」といった問いに、客観的な数値で答えることを得意としています。
一方で、前述の通り、定性調査は「そもそも、なぜ人々はこの商品に関心を持つのか」といった、行動の裏側にある理由や背景を探ることを目的とします。
まだ答えが見えていない、あるいは問題の所在すら明らかでない状況で、新たな気づきや仮説の種を発見するために用いられます。
両者の主な違いを、以下の表にまとめます。
| 比較項目 | 定性調査 | 定量調査 |
| 主な目的 | 仮説の発見・構築、原因・背景の深掘り | 仮説の検証、実態・傾向の把握 |
| 取得するデータ | 言葉・行動・感情など質的な情報 | 数値・数量(〜%、〜個など) |
| 主な手法 | デプスインタビュー、グループインタビュー、行動観察調査 | Webアンケート、会場調査、電話調査 |
| サンプル数 | 少数(数人〜十数人規模) | 多数(数百人〜数千人規模) |
| 分析方法 | 発言や文脈の解釈、行動の観察・分析 | 統計解析(クロス集計など) |
実際の現場では、これらを戦略的に使い分ける、あるいは組み合わせることが大切です。
例えば、まず定性調査で顧客のニーズに関する仮説をいくつか発見し、次にその仮説が市場全体にどれだけ当てはまるのかを定量調査で検証する、という流れは非常に効果的です。
逆に、定量調査で「特定層の満足度が低い」という事実が判明した際に、その原因を定性調査で深掘りするアプローチも有効となります。
このように、両者の特性を正しく理解し、課題のフェーズに応じて適切に連携させることが、より深く、かつ広い視野での市場理解へと繋がるのです。
定性調査が持つ独自の目的やメリット・デメリットについては、「定性調査の目的とは?わかりやすく解説!メリットや具体例も紹介」でさらに詳しく掘り下げていますので、あわせてご覧ください。
3. 目的で選ぶ|代表的な定性調査の種類と特徴
定性調査と一言で言っても、そのアプローチは一つではありません。課題の性質や明らかにしたい事柄に応じて、様々な手法が存在します。
目的地に応じて乗り物を選ぶように、調査のゴールから逆算して最適な手法を選択することが、有益なインサイトを得るための第一歩となります。
ここでは、ビジネスの現場で頻繁に活用される代表的な調査の種類について、それぞれの特徴と適した場面を解説していきます。
デプスインタビュー
デプスインタビューとは、インタビュアーと対象者が1対1の形式で、深く対話を行う手法です。個人の本音や複雑な意思決定のプロセスをじっくりと探求できます。
他人の前では話しにくいプライベートなテーマや、専門的な内容を扱うのに適しています。
メリットは、一人の人間を深く多角的に理解できる点にありますが、デメリットとしては、一度に多くの意見を聞くことができず、時間とコストがかかる傾向がある点が挙げられます。
グループインタビュー
複数の対象者(4〜6名程度)が座談会形式で意見を交わす手法です。この手法の持ち味は、参加者同士の発言が相互に作用し(グループダイナミクス)、多様な意見や新しいアイデアが生まれやすい点にあります。
新商品のコンセプト評価などに向いています。ただし、注意点として、他者の意見に流されて本音を言いにくくなる参加者がいる可能性や、声の大きい人の意見に議論が支配されるリスクも存在します。
行動観察調査(エスノグラフィー)
対象者の自宅や店舗など、実際の生活現場で「ありのままの行動」を観察する手法です。インタビューで語られる「建前」と実際の「行動」のギャップから、本人も言葉にできていない「隠れたニーズ」を発見するのに非常に強力です。
例えば、店舗で買い物客がどのような動線で、何を比較して商品を手に取るかを観察することで、売り場の改善点が見つかるかもしれません。
しかし、調査者の存在が対象者の普段の行動に影響を与えてしまう可能性も考慮する必要があります。
ワークショップ
単に意見を聞くだけでなく、参加者が主体的に特定の課題に取り組み、アイデアを出し合ったり、何かを制作したりする過程を通じてインサイトを得る、参加体験型の調査方法です。
参加者と企業が一体となって新しい価値を「共創」する場と捉えられます。メリットは、参加者の潜在的なアイデアや創造性を引き出しやすい点ですが、ファシリテーターのスキルが成果を大きく左右するという側面も持ち合わせています。
これらの手法に優劣はなく、ご自身の調査目的を「なぜ?を深く知りたい」「アイデアを広げたい」「実際の行動を見たい」といった言葉に置き換えてみることで、最適な手法が自ずと見えてくるはずです。
各手法のさらに詳細な比較や、ご自身の課題に最適な選び方については、「定性調査の種類を徹底解説と比較!目的別の手法と選び方と具体例解説」で網羅的に解説しています。
4. 何人に聞くべき?適切なサンプル数の考え方と根拠
定性調査を計画する際、「いったい何人の対象者を集めれば十分なのか」というサンプル数の問題は、多くの人が悩む点です。
定量調査のように統計学的な計算で算出するのではなく、定性調査では「情報の飽和」という概念を根拠に人数の妥当性を判断します。
情報の飽和とは、インタビューの対象者を追加していっても、そこから得られる情報に新しい発見や重要な知見がほとんど見られなくなり、同じような意見やパターンが繰り返されるようになった状態を指します。
この状態に達したということは、その調査テーマに関して、主要な意見のバリエーションは出尽くしたと判断できるサインになります。
これが、定性調査において「信頼できるサンプル数に達した」と考えるための、強力な質的な根拠となるわけです。
例えば、ある製品の使い勝手についてインタビューを進める中で、8人目あたりからほとんどの発言が過去のインタビューで聞いた内容の繰り返しになったとします。
このとき、インタビュアーが「このテーマについては、主要な論点はほぼ出尽くしたようだ」と確信を持てるようになれば、そこが飽和点です。それ以上サンプル数を増やしても、調査の費用対効果が著しく低下することを示唆しています。
もちろん、これはあくまで考え方であり、目的によって目安となる人数は変動します。
ユーザビリティテストの場合
ウェブサイトやアプリの使い勝手の課題を発見するユーザビリティテストでは、ユーザビリティ研究の権威であるヤコブ・ニールセン博士が提唱した「5人のユーザーでテストすれば、ユーザビリティ上の問題の約85%を発見できる」という考え方が広く知られています。

人数以上に大切なこと
定性調査のサンプル数を考える上で忘れてはならないのが、人数そのものよりも「誰に話を聞くか」という対象者の質です。いくら人数を集めても、調査目的に合致しない人々からの意見では、価値のある情報は得られません。
質の高いリクルーティング(対象者選定)が、調査の成否を分ける鍵となります。
以上の点を踏まえると、定性調査におけるサンプル数とは、固定された数値を指すのではなく、「情報の飽和」という質的な状態によって定義されるものだと考えられます。
計画段階で目安の人数を設定することは大切ですが、実際の調査では常にデータの質を吟味し、飽和点に達しているかを柔軟に見極める視点が不可欠です。
目的や手法に応じた、より具体的な人数設定の根拠については、「もう迷わない!定性調査のサンプル数は何人が最適?目的別の目安と根拠を徹底解説」の記事が参考になります。
定量調査との違いを理解して成果に繋がる定性調査の実践テクニック

知識をインプットしたら、次はいよいよ実践です。具体的な調査の進め方から、質の高い情報を引き出す質問の技術、そして集めた情報を価値あるインサイトに変える分析・レポート作成のコツまで、順を追って解説します。
- 5. 調査の全手順|企画からレポーティングまでの7ステップ
- 6. 良い質問の作り方|すぐに使える質問例と深掘りの技術
- 7. インサイトの見つけ方|代表的な分析手法とまとめ方のコツ
- 8.【事例】定性調査はビジネスでどう活かされるのか?
- 9.【必見】定性調査でよくある失敗と、その解決策
5. やりかた・全手順|企画からレポーティングまでの7ステップ
定性調査を成功させるためには、思いつきではなく、計画的な準備と体系的なプロセスが欠かせません。
調査は単に話を聞くだけでなく、その前後の準備と整理が非常に重要になります。大まかな流れは、以下の7つのステップで進められます。
1. 調査企画 すべての土台となる最も重要な段階です。「この調査で何を明らかにするのか」という目的を徹底的に明確にし、ビジネス上の課題を具体的なリサーチクエスチョンに落とし込みます。そして、その問いに答えるために最も適した調査手法(デプスインタビューなど)や対象者層を決定します。
2. 対象者選定(リクルーティング) 企画で定めた条件に基づき、調査に参加してくれる対象者を探し出します。調査の質は対象者選定で大きく左右されるため、慎重に行う必要があります。多くの場合、専門の調査会社が保有するモニターパネルなどを通じて募集します。
3. 調査票・フローの作成 調査当日の進行シナリオとなる「インタビューフロー」や「調査票」を作成します。これは単なる質問リストではなく、時間配分や、対象者の緊張をほぐすためのアイスブレイク、本音を深掘りするための追加質問まで想定した、コミュニケーションの設計図です。
4. 実査 準備したフローに基づき、実際にインタビューや観察調査を行います。重要なのは、台本通りに進めることだけに固執せず、対象者の反応に応じて臨機応変に質問を投げかけ、言語化されていない本音やインサイトを引き出すことです。
5. 文字起こし インタビューの録音データなどをテキスト化し、「発言録(トランスクリプト)」を作成します。この作業は地道ですが、後の分析の土台となるため、発言はできる限り一語一句そのまま書き起こすことが理想とされます。
6. まとめ・分析 作成した発言録を読み込み、内容を整理していきます。個々の発言の背後にある共通のテーマやパターンを見つけ出し、それらの関係性を読み解くことで、課題解決のヒントとなる示唆(インサイト)を抽出します。
7. レポーティング 調査の最終成果物となるレポートを作成します。分析から明らかになった発見点を提示し、それが今後のビジネスや研究にどう活かせるのか、具体的な提言に繋げることが求められます。
これらのステップを一つひとつ丁寧に進めることで、単なる感想集めに終わらない、戦略的な意思決定に貢献する定性調査が実現するのです。
これらの各ステップを成功に導くための、より詳細な手順や実践的なコツについては、「定性調査のやり方の完全マニュアル|5つのポイントで基本と手順徹底解説」で詳しく解説しています。
6. 良い質問の作り方|すぐに使える質問例と深掘りの技術
良い定性調査は、良い質問から生まれます。対象者の本音や深い考えを引き出すためには、質問の仕方に工夫が求められます。
価値ある情報を引き出すためには、戦略的に質問を組み立てることが不可欠です。
オープンクエスチョンで会話を広げる
最も重要なコツは、「はい/いいえ」で終わらない質問、いわゆる「オープンクエスチョン(開かれた質問)」を心がけることです。
例えば、「このサービスは便利ですか?」というクローズドクエスチョン(閉じた質問)ではなく、「このサービスを使っていて、特に便利だと感じるのはどのような時ですか?」と尋ねることで、相手は具体的なエピソードを交えて自由に語りやすくなります。
これにより、こちらが想定していなかったような利用シーンや価値が明らかになることがあります。
「なぜ?」の言い換えで圧迫感をなくす
行動の理由を探る際に便利な「なぜ?」という問いかけは、使い方を誤ると相手を問い詰めているような印象を与え、本音を話しにくくさせてしまうことがあります。
そこで、「なぜ?」を効果的に使うためには、表現を和らげたり、別の言葉に言い換えたりする工夫が大切になります。
例えば、「なぜA社ではなくB社の製品を買ったのですか?」と直接的に問うのではなく、「B社の製品に決められた時、どのような点が魅力的だとお感じになりましたか?」あるいは「最終的にB社の製品が選ばれた決め手は何だったのでしょうか?」といったように言い換えることで、相手が受ける印象は大きく和らぎます。
誘導しない中立的な聞き方
インタビュアーが最も注意すべきなのが、無意識のうちに特定の回答を促してしまう「誘導尋問」です。
例えば、「このデザイン、素敵だと思いませんか?」という聞き方は、「はい」という回答を期待していることを示唆してしまいます。
これでは、もし対象者が「あまり好きではない」と感じていても、その意見を表明しにくくなります。
常に「このデザインをご覧になって、率直にどのような印象を持たれましたか?」のように、相手が自由に答えられる中立的な質問を心がけることが、信頼性の高い情報を得るための絶対条件なのです。
すぐに使える質問の具体例から、質の高い質問を作るための手順、相手の心の奥深くにある意見を引き出すための聞き方のテクニックまで、「すぐ使える定性調査の質問例|作り方の手順と深掘りする聞き方のテクニック徹底解説」で網羅的に紹介しています。
7. インサイトの見つけ方|代表的な分析手法とまとめ方のコツ
インタビューなどで集めた膨大な発言記録は、そのままでは単なる情報の羅列です。この素材から意味のある発見を導き出し、ビジネス上の意思決定に役立つ「示唆(インサイト)」へと昇華させる作業が「分析」です。
ここでは、代表的な分析手法と、分かりやすいレポートのまとめ方について解説します。
アフターコーディング
収集したテキストデータ(発言録など)の各部分に、その内容を表すラベル(コード)を割り当てていく分析手法です。
例えば、「この操作が分かりにくい」という発言には「ユーザビリティの問題」というコードを、「サポートの対応が丁寧だった」という発言には「顧客サポートへの高評価」というコードを付けます。
この作業をデータ全体にわたって行うことで、どのようなテーマに関する発言が多いのかを客観的に把握できます。
KJ法(親和図法)
KJ法とは、文化人類学者の川喜田二郎氏が考案した、情報を整理し統合するための手法です。まず、データから得られた断片的な情報を一枚一枚のカードに書き出します。
次に、それらのカードを眺めながら、内容が似ているもの同士を集めてグループを作り、各グループの内容を的確に表す見出しを付けます。
最終的に、グループ同士の関係性を図解化し、問題の全体構造を明らかにします。混沌とした情報の中から、本質的な構造や新たな発見を生み出す力があります。
分かりやすいレポートの書き方
優れた分析から得られた洞察も、それが関係者に伝わらなければ意味がありません。レポートは、読み手を動かし、次のアクションを促すためのコミュニケーションツールです。
まず、レポートの冒頭には必ず「エグゼクティブサマリー」と呼ばれる要約部分を設け、調査の背景から最も重要な発見事項、そして提言までを簡潔にまとめます。
多忙な意思決定者も、ここで全体像を把握できます。
また、本文を記述する際には、「~という発言があった」という客観的な事実と、「この発言から~というニーズが考えられる」という分析者による解釈・考察を明確に区別することが不可欠です。
これらが混在していると、レポートの信頼性が損なわれます。さらに、図や表、対象者の「生の声」の引用などを効果的に使い、視覚的・直感的に内容が伝わるように工夫することも、分かりやすいレポート作成の鍵となります。
コーディングやKJ法といった分析手法の具体的な進め方や、説得力のあるレポート作成のコツについては、「定性調査のまとめ方と分析方法を解説!インサイトを導く実践手順」で詳しく解説していますので、ぜひご活用ください。
8.【事例】定性調査はビジネスでどう活かされるのか?
定性調査がビジネスの現場でどのように活用され、具体的な戦略に結びつくのか、架空のシナリオを通じて見ていきましょう。
ここでは、製薬企業が新薬開発の戦略を立てる場面を想定します。
状況設定
ある製薬企業が、特定の自己免疫疾患領域において、既存の治療法(注射剤)に課題を感じている医師が多いという市場データ(定量調査の結果)を掴んでいました。
しかし、その「課題」の具体的な内容や、医師たちが本当に求めているものが何なのか、その本質までは分かっていませんでした。
調査の実施
そこで、この企業はこの疾患治療の第一人者である専門医(KOL:キーオピニオンリーダー)数名に対し、1対1のデプスインタビューを実施しました。
目的は、数値の裏にある医師たちの本音や、臨床現場でのリアルな課題を深掘りすることです。
発見されたインサイト
インタビューの結果、非常に重要なインサイトが明らかになりました。多くの医師が感じていた不満の本質は、既存薬の効果そのものではなく、「患者が毎週のように通院し、自己注射を続けなければならないという『生活上の負担』」にあったのです。
あるKOLは、「患者が本当に求めているのは、治療効果はもちろんのこと、もっとシンプルで自由な日常なのです」と語りました。この発言から、「不満の正体」が注射という治療スタイルそのものにある、という重要な仮説が浮かび上がりました。
戦略への昇華
この定性調査から得られたインサイトは、企業の開発戦略に明確な方向性を与えました。
単に「既存薬より効果が高い薬」を目指すのではなく、「通院や注射の手間から患者を解放する、効果と利便性を両立したシンプルな経口薬(飲み薬)」という点を最大の強みとして打ち出すべきだ、という結論に至ったのです。
このように、定量調査で市場の「規模感(WHAT)」を捉え、定性調査で戦略の「核心(WHY)」を突くことで、プロジェクトの成功確率を飛躍的に高めることができます。
定性調査は、思い込みを修正し、顧客の真のニーズに寄り添った意思決定を可能にする力を持っているのです。
9.【必見】定性調査でよくある失敗と、その解決策
定性調査は非常に強力なツールですが、その価値を最大限に引き出すためには、初心者が陥りがちな失敗を避けなければなりません。
ここでは、代表的な失敗例とその解決策を紹介します。これらの点を事前に知っておくことで、調査の成功確率を高めることができます。
失敗例①:「とりあえず聞いてみよう」で始めてしまう
ダメな例:調査目的が「若者の価値観を探る」といったように曖昧なままインタビューを始めてしまい、面白い話はたくさん聞けたものの、結局ビジネス上の意思決定に繋がるような示唆は何も得られなかった。
解決策:調査を始める前に、「この調査で何を明らかにし、その結果をどう活用するのか」を徹底的に言語化し、関係者全員で合意形成しておくことが不可欠です。調査企画の段階で、「若者の〇〇離れの要因を特定し、次期マーケティング戦略の立案に活用する」というように、具体的なゴールを設定することが鍵となります。
失敗例②:インタビュアーが自社の魅力を熱弁してしまう
ダメな例:自社製品についてインタビューしている際に、インタビュアーが製品の魅力や開発の苦労話を熱心に語ってしまい、対象者が本音(特にネガティブな意見)を言い出しにくい雰囲気を作ってしまった。
解決策:インタビュアーは、徹底して「聞き役」に徹する必要があります。自分の話す時間は全体の2割以下に抑え、「この製品を使ってみて、率直にどう感じましたか?」といった中立的な質問を心がけます。主役はあくまで対象者であり、自分は何も知らないという前提で、相手から純粋に学ぶという姿勢を持つことが大切です。
失敗例③:少数の意見を市場の総意だと誤解する
ダメな例:インタビューした5人全員が「A案のデザインが良い」と答えたため、「A案は市場に受け入れられる」と判断し、開発を進めてしまった。
解決策:定性調査で得られるのは、あくまで個人の深い意見であり、その結果を市場全体の意見として一般化することはできません。
定性調査で見つかったインサイトや仮説は、あくまで「仮説」として捉えるべきです。必要に応じて、「A案を支持する人は、市場全体でどのくらいの割合いるのか」を確かめるために、大規模なアンケートなどの定量調査で検証する、というステップを踏むのが理想的な進め方です。
定性調査に関するよくある質問(FAQ)
- Q定性調査と定量調査、結局どちらが優れているのですか?
- A
どちらか一方が優れているというわけではありません。車と飛行機のように、それぞれ目的と役割が異なるツールです。
- 定性調査は、顧客の行動の裏にある「なぜ?」を探り、新しいアイデアや仮説を発見することに長けています。
- 定量調査は、その仮説が市場全体で「どれくらい?」当てはまるのかを数値で検証し、全体像を把握することを得意とします。
最も効果的なのは、調査の目的に応じて両者を使い分けたり、「定性調査で仮説を見つけ、定量調査で検証する」というように組み合わせたりすることです。
- Qインタビューは、結局何人くらいに行うのが適切ですか?
- A
「何人なら正解」という決まった人数はありません。定性調査で重視されるのは、人数そのものよりも、新しい発見が得られなくなる「情報の飽和」という状態です。
一般的に、1つのターゲット層あたり5名から15名程度のインタビューで、主要な意見が出尽くし、この「飽和」状態に達することが多いと言われています。重要なのは、何十人にも聞くことよりも、調査目的に合った対象者を厳選し、一人ひとりからどれだけ深いインサイト(本音や気づき)を引き出せるかという「質」になります。
- Q定性調査は、専門家でなくても自社で実施できますか?
- A
はい、小規模な課題発見やアイデア出しが目的であれば、自社で実施することも可能です。
ただし、重要な経営判断に関わる調査の場合は、専門の調査会社に依頼することをお勧めします。理由は2つあります。1つは、自社製品への思い入れなどから、無意識に都合の良い答えを引き出してしまう「インタビュアーバイアス」を避け、客観性を担保できるため。もう1つは、専門家は「本音を引き出す質問の技術」や「適切な対象者を探し出すノウハウ(リクルーティング)」に長けているため、調査の質が格段に高まるからです。
- Q定性調査には、どれくらいの費用がかかりますか?
- A
費用は、調査の規模や内容によって大きく変動するため一概には言えませんが、主に以下の要素で決まります。
- 対象者の条件:出現率が低い、あるいは医師や経営者などの専門家であるほど、リクルーティング費用や謝礼金は高くなります。
- 調査手法:会場を借りる対面インタビューか、オンラインインタビューかによっても費用は変わります。
- 調査人数と時間:インタビューする人数や、一人あたりの時間によって変動します。
- 分析とレポート:どこまで詳細な分析や報告を求めるかによって、必要な工数が変わります。
まずは調査会社に相談し、目的に合わせた見積もりを取ることをお勧めします。
- Q分析の際、自分の主観や思い込みが入ってしまわないか心配です。
- A
非常に重要なポイントです。客観性を保つために、以下の3つの対策が有効です。
- 事実と解釈を分ける:インタビューで出た「発言(事実)」と、そこから考えられる「考察(解釈)」を、分析の過程で明確に分けて記録します。
- 複数人で分析する:分析者一人の視点に頼るのではなく、チームの複数人で発言録を読み込み、「自分はこう解釈したが、どう思うか?」と議論することで、主観的な思い込みを減らし、より多角的な視点からインサイトを導き出せます。
- 発言の背景を考慮する:なぜその人はそう言ったのか、その人の価値観や生活、話の流れ(文脈)を考慮しながら発言を解釈することで、表面的な言葉に惑わされず、本質に迫ることができます。
Insights4 Pharmaでは、市場調査において欠くことができない定性調査に関して、基本的にな情報から実践例、深掘りの解説記事を書いて市場調査での成功をサポートしています。
以下、サイト内での定性調査関連に関する記事のリストですのであわせてご活用ください。
定性調査をさらに深く学ぶためのお役立ちサイト・リソース集
この記事では、当ブログの記事作成にあたり参考とした、また、定性調査やマーケティングリサーチをさらに深く学ぶ上で役立つ、信頼性の高いウェブサイトやリソースをご紹介します。
これらの情報源を活用することで、調査の質の向上や、より説得力のある戦略立案に繋がります。ぜひブックマークしてご活用ください。
最新のマーケティングトレンドや、他社の調査事例を学ぶのに最適な専門メディアです。日々の情報収集にご活用ください。マーケティング・市場調査の専門メディアで活用されているサイトです。
MarkeZine(マーケジン)
デジタルマーケティングを中心に、幅広いマーケティング情報を提供する国内最大級の専門メディアです。第一線で活躍する実務家の寄稿や、最新の調査データに関するニュースが豊富で、定性調査を活かした具体的なマーケティング事例を知りたい方におすすめです。
Harvard Business Review
世界的に権威のある経営学の専門誌の日本語版です。経営戦略やリーダーシップに関する質の高い論文が多数掲載されており、定性調査から得られたインサイトを、より上位の経営戦略にどう結びつけるか、といった視点を得るのに非常に役立ちます。
→ Harvard Business Review公式サイトはこちら
日本の市場調査をリードする大手市場調査会社・コンサルティングファームの公式サイトです。各社が独自に行っている自主調査レポートや、調査手法に関する解説コラムは、実践的な知識の宝庫です。
株式会社インテージ
国内最大手の市場調査会社です。長年の実績に裏打ちされた幅広い業界の調査データや、リサーチに関する深い知見がコラム形式で公開されています。特に、消費者パネル調査のデータは市場の大きなトレンドを掴む上で欠かせません。
株式会社マクロミル
ネットリサーチの分野で高い実績を誇る市場調査会社です。スピーディな自主調査を数多く実施しており、若者のトレンドや時事ネタに関する意識調査など、鮮度の高い情報が豊富です。Webアンケートと定性調査を組み合わせる際のヒントも得られます。
株式会社野村総合研究所 (NRI)
日本を代表するコンサルティングファーム兼シンクタンクです。社会動向や未来予測に関する、質の高い大規模な調査レポートを数多く発表しています。定性調査を行う前のマクロ環境分析や、調査結果の背景を考察する際に非常に参考になります。
定性調査が特に重要となるUX(ユーザーエクスペリエンス)分野の、世界的な権威サイトです。
Nielsen Norman Group
ユーザビリティ研究の世界的権威であるヤコブ・ニールセン博士とドン・ノーマン博士が共同で設立した、UXリサーチに関する世界最高峰の情報源です。ウェブサイトやアプリのユーザビリティテストに関する豊富な記事やレポートが公開されており、多くの記事は日本語でも読むことができます。
→ Nielsen Norman Group公式サイトはこちら
調査の信頼性を担保する上で欠かせない、公的な統計データや学術論文の情報源です。
総務省統計局
日本の人口、経済、社会に関する最も基本的な統計データを公表している国の中心機関です。国勢調査をはじめとする公的統計は、調査対象者を設定する際の市場規模の把握や、調査結果を解釈する上での基礎情報として不可欠です。
J-STAGE
日本の学術論文を検索・閲覧できる、科学技術振興機構 (JST) が運営するプラットフォームです。定性調査の学術的な研究手法や、特定の分野における過去の研究動向を調べる際に非常に信頼性が高く、調査レポートに学術的な裏付けを持たせたい場合に役立ちます。
公益社団法人 日本マーケティング協会
日本のマーケティングの発展を目的とした、国内で最も権威のある公益社団法人です。マーケティングの定義や倫理規定、最新のマーケティング関連のシンポジウムやセミナー情報などを提供しており、業界の標準的な考え方を学ぶことができます。
当ブログでも触れている、製薬業界の市場調査に関連する公的機関です。
厚生労働省
医薬品行政や医療制度に関する公式情報を発表している中央省庁です。薬事承認や診療報酬改定、各種医療統計など、製薬・医療分野の市場調査を行う上で必ず確認すべき一次情報が掲載されています。
この記事では外部の優れたサイトを厳選してご紹介しますが、弊社でも、特に製薬業界の市場調査に役立つ公式サイトやデータベースをまとめたリソース集を別途ご用意しております。より専門的な情報源をお探しの方は、こちらもぜひご活用ください。
Insights4 Pharmaの定性調査に関するおすすめ記事
定性調査の完全ガイド|基本・定量調査との違いまで解説まとめ
- 定性調査の主な目的は「なぜ」という深層心理を探ること
- 数値化できない顧客の本音やインサイトの発見を目指す
- 定量調査は「量」を測り立てた仮説を検証するための手法
- 両者は優劣ではなく互いに補完しあう関係にある
- 代表的な手法にグループインタビューやデプスインタビューがある
- 行動観察調査は対象者の無意識の行動からニーズを探る
- 調査の成否は事前の「目的設定」と「企画」が鍵を握る
- 目的合った対象者を慎重に選定することが大切
- インタビューでは誘導質問を避け相手の話を深く聴く
- 情報の飽和がサンプル数の妥当性を判断する根拠となる
- 最大のメリットは顧客のリアルな本音に直接触れられる点
- 予期せぬ発見が新たなビジネスのヒントになることもある
- デメリットは結果を市場全体として一般化しにくいこと
- 定性調査で仮説を見つけ定量調査で検証する流れが効果的
- 顧客を深く理解しビジネスの失敗リスクを低減させる手段
