「ユーザーのリアルな声を聞きたいけれど、具体的にどんな質問をすれば良いのだろう…」
定性調査の質問例を探しているあなたは、今まさにそんな悩みを抱えているのではないでしょうか。
質の高いインサイトを得るためには、定性調査とは何か、そのメリットやアンケート調査との違いを理解した上で、効果的な質問項目を作成することが不可欠です。
この記事では、企業の担当者様がすぐに実践できるよう、インタビューや聞き取り調査、特に1対1で深く話を聞くデプスインタビューで役立つ質問の具体例を豊富に紹介します。
また、調査全体の正しい手順やながれ、回答の幅を広げるオープンクエスチョンの使い方、そして相手の深層心理に迫る「なぜ?」という問いかけに関する注意点も詳しく解説します。
さらに、ダメな例は何か、対象者を誘導しない聞き方のコツ、さらには膨大な発言から価値ある結論を導き出すインタビュー結果のまとめ方まで、一連のプロセスを網羅的に学ぶことができます。
記事のポイント
- 定性調査の基本とアンケート調査との明確な違い
- インサイトを引き出す効果的な質問項目の作成手順
- やってはいけない質問のダメな例と注意点
- インタビュー結果を次の行動に繋げるまとめ方のコツ
基本から学ぶ!効果的な定性調査の考え方と質問例

- 定性調査とは?アンケート調査との違いは?
- 調査の基本的な手順とながれ
- インタビュー前に考えるべき質問項目
- オープンクエスチョンと「なぜ?」の使い方
- ダメな例は?対象者を誘導しない聞き方
定性調査とは?アンケート調査との違いは?
定性調査という言葉を聞いたことはあっても、具体的な内容やアンケート調査との違いを正確に説明するのは難しいと感じる方もいるかもしれません。
定性調査とは、ひと言で言えば「数値では捉えきれない質的な情報を深掘りする」ための調査手法です。
個人の感情や意見、行動の背景に潜む「なぜ、そう思うのか」「どうして、そのような行動をとったのか」といった深層心理を探ることを主な目的とします。
一方、アンケート調査に代表される定量調査は、「量的なデータを収集し、全体像を数値で把握する」ことを目的とします。調査結果をグラフやパーセンテージで示すことで、市場の傾向や多数派の意見を客観的に把握することに長けています。
| 比較項目 | 定性調査 | 定量調査 |
| 主な目的 | 仮説の発見・構築、原因・背景の深掘り | 仮説の検証、実態・傾向の把握 |
| 取得するデータ | 言葉・行動・感情など質的な情報 | 数値・数量(〜%、〜個など) |
| 主な手法 | デプスインタビュー、グループインタビュー、行動観察調査 | Webアンケート、会場調査、電話調査 |
| サンプル数 | 少数(数人〜十数人規模) | 多数(数百人〜数千人規模) |
| 分析方法 | 発言や文脈の解釈、行動の観察・分析 | 統計解析(クロス集計など) |
定性調査は「深く狭く」、定量調査は「浅く広く」情報を集めるアプローチと言えます。どちらか一方が優れているというわけではなく、調査の目的に応じて適切な手法を選択し、時には組み合わせて活用することが、マーケティング課題の解決に向けた鍵となります。
調査の基本的な手順とながれ
定性調査を成功に導くためには、行き当たりばったりではなく、体系的で計画的なアプローチが不可欠です。
しっかりとした準備と手順を踏むことで、調査の質は格段に向上し、価値あるインサイトを得られる可能性が高まります。
第1のフェーズは「調査企画・設計」です。
これは調査全体の土台を作る最も重要な段階です。まず「何のために調査を行うのか」という目的を明確にし、グループインタビューやデプスインタビューといった最適な手法を選びます。
そして、どのような条件の人に話を聞きたいか(対象者条件)を具体的に設定します。ここでの設計が、調査全体の質を大きく左右します。
第2のフェーズとして「対象者のリクルーティング」を行います。
設計した条件に合致する参加者を探し出す段階です。多くの場合、専門の調査会社を通じて事前アンケート(スクリーニング調査)を行い、条件に合う人を絞り込みます。
最終的に条件にぴったり合う人を選び出し、調査への参加を正式に依頼します。
第3のフェーズが「実査(インタビューの実施)」です。
実際に参加者に集まってもらい、話を聞く調査のハイライトです。専門の司会者(モデレーター)が、事前に準備した質問の流れ(インタビューフロー)に沿って、参加者が話しやすい雰囲気を作りながら進行します。
後から正確に分析できるよう、会話は録音・録画するのが一般的です。
最後の第4のフェーズは「分析・レポーティング」となります。
インタビューで得られた情報を分析し、結論を導き出す最終段階です。まず録音内容を文字に起こし、その発言の中から課題解決のヒントとなる「インサイト(洞察)」を見つけ出します。
そして、調査の目的から分析結果、導き出された提言までを一つの報告書としてまとめます。
これらの手順を一つひとつ丁寧に進めることで、単なる感想集めに終わらない、戦略的な意思決定に貢献する定性調査が実現するのです。
インタビュー前に考えるべき質問項目
インタビューの成功は、その場での会話の盛り上がりだけでなく、事前準備の質、特に「何を」「どのような順番で」聞くかを定めた質問項目の設計にかかっていると言っても過言ではありません。
価値ある情報を引き出すためには、戦略的に質問を組み立てることが不可欠です。ここでは、対象者の心を開き、深層心理に迫るための質問項目の考え方と、その分類について掘り下げていきます。
質問項目を設計する際の基本的な姿勢として、「仮説を検証するための質問」と「新たな発見を促すための質問」をバランス良く含めることが大切です。
調査側が事前に持っている仮説が正しいかを確認しつつも、予想もしなかった意見やアイデアが生まれる余地を残しておくことが、定性調査の醍醐味を最大限に活かす鍵となります。
効果的なインタビューフロー(質問の流れ)を構築するために、質問を以下のようなカテゴリーに分類して考えると整理しやすくなります。
導入の質問(アイスブレイク)
インタビュー開始直後は、対象者も緊張している状態です。いきなり本題に入るのではなく、まずは誰でも答えやすい簡単な質問から始め、リラックスした雰囲気を作ることが目的です。
会話例
「本日はお忙しい中ありがとうございます。皆さん、今日はこちらまでどうやって来られましたか?」
「まず、普段の週末はどのようにお過ごしか、簡単な自己紹介を兼ねて教えていただけますか?」
このような当たり障りのない会話を通じて、話しやすい場を作り、その後の本音を引き出すための土台を築きます。
本題に関する質問(事実・行動)
場の雰囲気が和んだら、徐々に調査テーマに関連する質問に移っていきます。ここでは、まず対象者の普段の行動や具体的な経験といった「事実」を聞き出すことに集中します。
質問例(テーマ:缶コーヒー)
「皆さんが、普段どのような時に缶コーヒーを飲まれるか、具体的な場面を思い出しながら教えてください」
「一番最近、缶コーヒーを飲んだのはいつ・どこでしたか?その時の状況も併せてお聞かせください」
「どう思うか」という意見の前に、「どうしているか」という事実を確認することで、その後の意見や感想に具体性と説得力が生まれます。
深掘りの質問(意識・価値観)
事実や行動を把握した上で、その背景にある理由や感情、価値観を探るのが、このカテゴリーの質問です。定性調査の核心部分と言えるでしょう。
質問例(テーマ:缶コーヒー)
「仕事の合間に、数ある飲み物の中からあえて缶コーヒーを選ばれるのは、どのようなお気持ちからでしょうか?」
「あなたにとって、『お気に入りの缶コーヒーを飲む時間』というのは、どのような意味を持つ時間ですか?」
ここでは、「なぜ?」を直接的に問うだけでなく、その行動がもたらす感情的な価値(例:リフレッシュ、ご褒美、スイッチの切り替えなど)を探ることが重要です。
仮説を問う質問(アイデア評価)
インタビューの後半では、こちらが提示したい新商品のコンセプトや、改善案に対する意見を求める質問を投げかけます。
質問例(テーマ:缶コーヒー)
「もし、このような健康成分が入った新しいタイプの缶コーヒーが発売されたとしたら、試してみたいと思われますか?」
「そのように思われた理由も、併せて教えていただけますか?」
これらの質問カテゴリーを意識し、「導入 → 事実・行動 → 意識・価値観 → アイデア評価」という流れでインタビューフローを組み立てるのが一般的です。
簡単な質問から始め、徐々に本質に迫っていくことで、対象者はスムーズに思考を深め、質の高い回答を提供してくれるようになります。
オープンクエスチョンと「なぜ?」の使い方
対象者からより豊かで深い情報を引き出すためには、質問の「聞き方」、つまり言葉の選び方が極めて重要になります。
数あるテクニックの中でも、基本かつ最も強力なのが「オープンクエスチョン」の活用です。一方で、理由を探る際に便利な「なぜ?」という問いかけは、使い方を誤ると逆効果になることもあります。
このセクションでは、この二つのツールの効果的な使い方と注意点を解説します。
オープンクエスチョンで会話を広げる
オープンクエスチョンとは、「はい」か「いいえ」では答えられない、自由な回答を促す質問のことです。
この質問形式を用いることで、対象者は自身の言葉で考え、詳細なエピソードや感情を語り始めるきっかけを得られます。
これに対して、「はい/いいえ」や限定された選択肢で回答を求める質問を「クローズドクエスチョン」と呼びます。
クローズドクエスチョンは事実確認には便利ですが、多用すると会話が途切れがちになり、尋問のようになってしまう可能性があります。
両者の違いは、以下の例を見ると明らかです。
- クローズドクエスチョン: 「このシャンプーの香りは好きですか?」
- 想定される回答:「はい、好きです」「いいえ、あまり…」
- オープンクエスチョン: 「このシャンプーの香りについて、どのように感じましたか?」
- 想定される回答:「甘くて華やかな感じがして、お風呂の時間が楽しくなりそうです。ただ、もう少しさっぱりした香りが好きな人もいるかもしれませんね…」
オープンクエスチョンは、一般的に「5W1H」(What, When, Where, Who, Why, How)を使って始めると作りやすいです。
- 「(何を)どのような点に魅力を感じましたか?」
- 「(どのように)このサービスを、普段どのように活用されていますか?」
- 「(どうして)その商品を選ぼうと思われたのですか?」
インタビューの基本は、オープンクエスチョンで自由に語ってもらい、気になる点があればクローズドクエスチョンで確認する、という流れを意識すると良いでしょう。
「なぜ?」の便利な点と、慎重になるべき理由
「なぜ?」という質問は、行動や意見の理由を単刀直入に尋ねることができ、深掘りのための強力なツールです。
特に、ある魅力(属性)がどのような便益(機能的・情緒的)を経て、最終的に個人のどのような価値観に結びついているのかを探る「ラダリング法」においては、この問いかけが中心的な役割を果たします。
しかし、この便利な言葉には注意が必要です。立て続けに「なぜですか?」「それはなぜですか?」と繰り返してしまうと、相手はまるで問い詰められているかのような圧迫感を覚え、 defensive(防御的) な気持ちになってしまうことがあります。
結果として、本音を隠したり、考えるのをやめてしまったりする危険性があるのです。
そこで、「なぜ?」を効果的に使うためには、表現を和らげたり、別の言葉に言い換えたりする工夫が大切になります。
- 直接的な質問: 「なぜ、A社の製品ではなくB社の製品を購入したのですか?」
- 言い換えの表現例:
- 「B社の製品に決められた時、どのような点が魅力的だとお感じになりましたか?」
- 「A社の製品とも比較されたかと思いますが、最終的にB社の製品が選ばれた決め手は何だったのでしょうか?」
- 「B社の製品を購入しようと決心された背景について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?」
これらのように言い換えることで、質問の意図は同じでも、相手が受ける印象は大きく和らぎます。
要するに、オープンクエスチョンを会話の基本としつつ、理由を尋ねる際には「なぜ?」という便利な言葉に頼りすぎず、多様な表現を駆使して相手が心地よく話せる雰囲気を作ることが、質の高いインタビューの鍵となるのです。
ダメな例は?対象者を誘導しない聞き方
インタビュー調査において、インタビュアーが最も注意深く避けなければならないのが、無意識のうちに特定の回答を促してしまう「誘導尋問」です。
インタビュアーの意見や期待が少しでも言葉ににじみ出てしまうと、対象者はそれに合わせようとしたり、反対意見を言いにくくなったりして、得られる情報の信頼性が損なわれてしまいます。
ここでは、ついやってしまいがちなNGな質問のパターンを具体例とともに紹介し、中立的な聞き方を身につけるためのポイントを解説します。
パターン1:同意や肯定を求める質問
これは、インタビュアーが持つ肯定的な意見に、相手の同意を求める形で質問してしまう典型的な悪い例です。
- NGな質問例:
「この新しいパッケージデザイン、すごく洗練されていて素敵だと思いませんか?」 - この質問の問題点:
「思いませんか?」という聞き方は、「はい、そう思います」という回答を強く期待していることを示唆しています。これにより、もし対象者が「あまり好きではない」と感じていても、その意見を表明しにくくなる心理的な圧力がかかります。 - 改善された質問例:
「この新しいパッケージデザインをご覧になって、率直にどのような印象を持たれましたか?」
パターン2:質問に自分の評価や主観を盛り込む
質問の中に、インタビュアー自身の評価や考えを先に含めてしまうと、対象者の自由な発想や判断を著しく妨げることになります。
- NGな質問例:
「A案は非常に斬新で面白いですが、B案は少しありきたりな感じがしますよね。どちらが良いと思われますか?」 - この質問の問題点:
A案を「斬新で面白い」、B案を「ありきたり」と評価することで、既に対象者の心の中に優劣の先入観を植え付けてしまっています。これでは、対象者自身のフラットな視点からの評価を引き出すことはできません。 - 改善された質問例:
「ここにA案とB案、二つのデザインがあります。それぞれについて、良いと感じる点、気になった点を教えてください」
パターン3:限定的な選択肢や二者択一を強いる質問
対象者の考えがもっと複雑であるにもかかわらず、インタビュアーが用意した単純な選択肢の中に回答を押し込めようとするパターンです。
- NGな質問例:
「この商品を購入する理由は、価格が安いからですか?それとも品質が良いからですか?」 - この質問の問題点:
実際の購入理由は、「価格と品質のバランスが良いから」「店員に勧められたから」「いつも使っていて安心感があるから」など、もっと多岐にわたる可能性があります。選択肢を限定することで、そうした多様な視点を切り捨ててしまうことになります。 - 改善された質問例:
「この商品を数ある中から選んで購入されている理由について、思いつくことを教えていただけますか?」
中立性を保つための心構え
このような誘導を避けるためには、インタビュアーは常に以下の点を心がけることが求められます。
- 「教わる姿勢」を持つ: 自分は何も知らないという前提に立ち、対象者から純粋に学ぶという姿勢で臨む。
- 沈黙を恐れない: 質問を投げかけた後、相手が考えるための「間」を大切にする。焦って言葉を継いだり、ヒントを与えたりしない。
- 相槌は中立的に: 「はい」「ええ」といった肯定の相槌だけでなく、「なるほど」「ほう」といった、単に話を聞いていることを示す中立的な相槌を使い分ける。
要するに、インタビュアーの役割は、自分の仮説を証明することではなく、対象者が自身の言葉で自由に、そして正直に語れる安全な場を提供することにあります。
質問の言葉選び一つひとつに細心の注意を払い、常に客観的で中立的な立場を維持することが、信頼性の高い情報を得るための絶対条件なのです。
本音を引き出す定性調査のテクニックと質問例

- デプスインタビューで深掘りするコツ
- インタビュー結果のまとめ方ポイント
- インタビューや聞き取り調査の具体例
デプスインタビューで深掘りするコツ
複数の対象者が集うグループインタビューとは異なり、調査者と対象者が1対1で向き合う定性調査の手法のひとつデプスインタビューは、個人の深層心理や複雑な意思決定のプロセスを解明するために非常に強力な手法です。
他者の目を気にすることなく、より深く、そして正直な意見を引き出せる可能性がある一方で、その成否はインタビュアーのスキルに大きく依存します。
ここでは、対象者の心の奥底にある本音や価値観まで掘り下げるための、デプスインタビューにおける具体的なコツを解説していきます。
信頼関係(ラポール)の構築
デプスインタビューの成功は、調査開始から最初の10分〜15分で、対象者との間にどれだけ信頼関係(ラポール)を築けるかにかかっていると言っても過言ではありません。
人間関係やお金、健康といった繊細なテーマを扱う場合、相手が「この人になら話しても大丈夫だ」と感じる心理的な安全性を作り出すことが、すべての基本となります。
本題にすぐ入るのではなく、まずはアイスブレイクに十分な時間を使いましょう。相手の緊張をほぐし、自然な会話の流れを作るための質問を投げかけます。
会話例
- 「本日はお越しいただきありがとうございます。少し蒸し暑い日ですが、通勤は大変ではありませんでしたか?」
- 「本格的なお話に入る前に、少しだけ自己紹介をさせてください。私は〇〇と申します。普段はこのような形で、いろいろな方のお話をお伺いする仕事をしております。よろしければ、〇〇様が最近ハマっていることや、休日の過ごし方など、リラックスしてお話しいただけますか?」
大切なのは、相手の話に真摯に耳を傾け、共感的な相槌を打つことです。「そうなんですね」「それは面白いですね」といった言葉に加え、相手の表情や声のトーンに合わせた反応を示すことで、徐々に心の壁が取り払われていきます。
この信頼関係の土台があって初めて、深掘りへの扉が開かれるのです。
「なぜ」を言い換える質問テクニック
前述の通り、対象者の行動の理由を探る際に「なぜ?」という問いは非常に便利ですが、デプスインタビューのように深く掘り下げていく場面では、その使い方に細心の注意が求められます。
同じ質問者が何度も「なぜですか?」と繰り返すと、相手は詰問されているように感じ、思考が停止してしまったり、当たり障りのない回答に終始してしまったりする危険性があります。
そこで、理由や背景を尋ねる際には、多様な言い換え表現をストックしておくことが鍵となります。
- 避けたい例:
「なぜAではなくBを選んだのですか?」
「それはなぜですか?」
「では、なぜそう思うのですか?」 - 言い換え表現の例:
- 「Bを選ばれた時には、どのようなことをお考えだったのでしょうか?」
- 「Bに特に魅力を感じられたのは、どういった点だったのか、もう少し詳しく教えていただけますか?」
- 「そのように感じられるようになった背景には、何かきっかけとなるような出来事があったのでしょうか?」
これらのように表現を変えるだけで、相手に与える印象は格段に柔らかくなります。
質問の意図は同じでも、相手に考えを促し、より豊かな内省を引き出すための配慮が、深掘りの質を決定づけます。
ラダリング法で価値観を探る
デプスインタビューで特に有効な深掘り手法として「ラダリング法」が知られています。
これは、ある商品やサービスが持つ具体的な特徴(属性)から始まり、はしご(ラダー)を登るように質問を重ねていく手法です。
- 機能的便益「その結果、何が良いのか」
- 情緒的便益「それによって、どんな気持ちになるのか」
- 個人の価値観「それは、自分にとってどのような意味を持つのか」
会話例(オーガニック野菜を選ぶ消費者に対して)
- インタビュアー: 「オーガニック野菜を選ばれるのはなぜですか?」
- 対象者: 「農薬が使われていないからです」 (属性)
- インタビュアー: 「農薬が使われていないと、ご自身にとってどんないいことがありますか?」
- 対象者: 「体に安全なものを摂取できるからです」 (機能的便益)
- インタビュアー: 「体に安全なものを摂取できると、どのようなお気持ちになりますか?」
- 対象者: 「家族の健康を守っているという安心感が得られます」 (情緒的便益)
- インタビュアー: 「家族の健康を守るというのは、〇〇さんにとってどのような意味を持ちますか?」
- 対象者: 「何よりも大切にしたい、自分にとっての幸せの基本です」 (価値観)
このように、ラダリング法を用いることで、単なる製品選択の理由を超え、その人の生き方や大切にしている価値観まで理解を深めることが可能になります。
沈黙を恐れず、待つ姿勢
深掘りの質問を投げかけた後、相手がすぐに答えられないことがあります。
インタビュアーが陥りがちな失敗は、この「沈黙」に耐えきれず、すぐに別の質問をしたり、答えのヒントを与えたりしてしまうことです。
しかし、この沈黙の時間こそ、対象者が自身の内面と向き合い、考えを整理し、普段は意識していない本音の言葉を探している貴重な瞬間なのです。
インタビュアーは、相手が考え込んでいる間、焦らずに穏やかな表情で待つ姿勢を保つことが大切です。
数秒から時には数十秒の沈黙の後に発せられる言葉にこそ、最も価値のあるインサイトが隠されていることが少なくありません。
以上の点を踏まえると、デプスインタビューは単に質問を投げかける技術ではなく、相手の世界観を深く理解し、共感しようとする対話の姿勢そのものが成功の鍵となると考えられます。
インタビュー結果のまとめ方ポイント
インタビューでどれほど貴重な発言を引き出せたとしても、その情報を分析し、次のアクションにつながる形で共有されなければ、調査は成功とは言えません。
膨大な発言という素材から、ビジネス課題を解決する「インサイト」という宝石を掘り出すための、結果のまとめ方の要点を解説します。
はじめに、正確な「発言録」を作成し、繰り返し読み込みます。
まずは録音データから一言一句を文字に起こすことが分析のスタート地点です。完成した発言録を何度も読み返し、調査目的に関連する重要なキーワードや、感情がこもった発言などに印を付けていきましょう。この地道な作業が、内容の深い理解につながります。
次に、発言内容を「グルーピングして構造化」します。
印を付けた発言を、意味の塊ごとに分類し、「〇〇への満足点」「△△への不満」といったラベルを付けて整理する作業です。これにより、混沌としていた個々の発言が整理され、データ全体の構造や傾向が視覚的に捉えやすくなります。
そして、構造化したデータから「インサイトを発見」します。
これは単なる発言の要約ではありません。整理された複数の意見の背後にある共通の価値観や、これまで誰も気づかなかった課題など、物事の本質を見つけ出すプロセスです。このインサイトから、「だから我々は何をすべきか」という具体的な提言を導き出すことが最終的な目標となります。
最後に、分析結果を「ストーリーとして報告書にまとめ」ます。
調査の背景から、分析を通じて発見したインサイト、そして具体的なアクション提言までを、一つの説得力ある流れとして構成します。報告書は、読んだ人が次の行動を起こすためのコミュニケーションツールです。図や印象的な発言の引用などを効果的に使い、分かりやすく伝えることを意識しましょう。
これらのステップを丁寧に進めることで、インタビューで得られた生の声は、ビジネスを動かすための強力な羅針盤へと昇華されるのです。
定性調査のまとめ方は別記事「定性調査のまとめ方と分析方法を解説!」で分析方法も含めて深堀りしています。興味のある方はぜひご活用ください
3つのシナリオの具体例・台本
定性調査の理論やコツを理解しても、実際のインタビューがどのように進むのかを具体的にイメージするのは難しいかもしれません。
ここでは、3つの異なるビジネスシナリオを想定し、それぞれの目的に応じたインタビューの台本(インタビューフロー)の骨子と、具体的な質問例を紹介します。これらはあくまで一例であり、実際の調査では対象者の反応を見ながら柔軟に質問を追加したり、順番を入れ替えたりすることが大切です。
台本と質問例 化粧品の新商品のアイディアに活かす
- 調査目的: 20代の働く女性がスキンケアに対して抱える、まだ満たされていない潜在的なニーズや不満を探り出し、新しい美容液のコンセプト開発のヒントを得る。
- 対象者: 25〜29歳、都内在住、フルタイム勤務、スキンケアに月5,000円以上かけている女性。
【インタビューフローと質問例】
- 導入・アイスブレイク (約10分)
- 普段の仕事内容や、休日の過ごし方について。
- 「最近、何かハマっていることや、楽しかった出来事はありますか?」
- 美容全般への関心度合いについて。
- スキンケア実態の把握 (約20分)
- 「それでは、普段のスキンケアについてお伺いします。朝と夜、それぞれどのようなアイテムをどのような順番で使っているか、具体的に教えていただけますか?」
- 「スキンケア用品を選ぶとき、どのような情報を一番参考にされますか?(例:SNS、雑誌、友人、店頭など)」
- 「新しい商品を試してみようと思うのは、どのような時ですか?」
- 深掘り(悩み・不満・理想) (約40分)
- 「現在のスキンケアで、『ここが少し面倒だな』『もっとこうだったら良いのに』と感じる点はありますか?どんな小さなことでも構いません」
- 「今お使いの美容液についてお伺いします。その美容液に満足している点はどこですか?」
- 「逆に、その美容液に、もし一つだけ何か機能を追加したり、変えたりできるとしたら、どんな機能が欲しいですか?その理由も教えてください」
- 「〇〇さんにとって、『理想の肌』とは、どのような状態ですか?」
- 「『こんな美容液があったら絶対に買うのに!』と思うような、夢のような美容液について、自由に想像を膨らませて語っていただけますか?」
- アイデア探索とまとめ (約20分)
- 美容以外の分野で、例えば食品やファッションなどで「これは心地よいな」「贅沢だな」と感じる体験について。
- (コンセプト案があれば提示)「最後に、このようなコンセプトの美容液があったとしたら、どう思われますか?」
台本と質問例 化粧品の改善点を製品に活かす
- 調査目的: 自社が販売している既存ファンデーションのヘビーユーザーから、製品の満足点・不満点を具体的にヒアリングし、次期リニューアルの方向性を明確にする。
- 対象者: 30代、自社ファンデーションAを週5日以上、1年以上継続使用している女性。
【インタビューフローと質問例】
- 導入・製品との関わり (約10分)
- 対象製品(ファンデーションA)を使い始めたきっかけ、使用期間について。
- 「ファンデーションAを使い始める前は、どちらの製品をお使いでしたか?」
- 具体的な使用実態の把握 (約25分)
- 「ファンデーションAを塗る前の下地や、塗った後のパウダーなど、普段一緒に使っているアイテムについて教えてください」
- 「どのような道具(パフ、ブラシ、指など)を使って塗っていますか?その手順も具体的に教えていただけますか?」
- 「一日の中で、化粧崩れが気になったり、お直しをしたりするタイミングはありますか?それはどのような時ですか?」
- 評価の深掘り(満足点・不満点) (約35分)
- 「このファンデーションAの、一番気に入っている点はどこでしょうか?(例:仕上がり、カバー力、色、テクスチャー、価格など)具体的なエピソードを交えて教えてください」
- 「この製品を使っていて、『嬉しいな』『気分が上がるな』と感じるのはどのような瞬間ですか?」
- 「逆に、『ここがもっとこうだったら、さらに良くなるのに』と感じる点はありますか?容器の使い勝手など、中身以外のことでも構いません」
- 「もし、この製品が明日からお店で買えなくなるとしたら、どのように感じますか?」
- 競合比較とまとめ (約20分)
- 「もしファンデーションA以外の製品を試すとしたら、どの製品が気になりますか?その理由は何ですか?」
- 「最後に、ファンデーションAが今後どのように変わっていったら嬉しいか、ご要望があればお聞かせください」
台本と質問例 新薬の開発品の開発戦略にKOLの意見を活かす
- 調査目的: 特定の自己免疫疾患領域のKOL(キーオピニオンリーダー)である専門医に対し、開発中の新薬候補品(経口薬)の製品プロファイル(TPP)を提示し、臨床現場でのニーズや期待、今後の開発戦略への助言を得る。
- 対象者: 対象疾患の診療経験が豊富な大学病院勤務の医師
【インタビューフローと質問例】
- 導入・診療状況の確認 (約10分)
- ご挨拶と自己紹介、調査目的の説明。
- 「先生が現在、この疾患の患者様を月に何名ほど診察されていらっしゃるか、大まかにお伺いできますでしょうか?」
- 現状の治療における課題のヒアリング (約20分)
- 「現在、この疾患の治療で主に使用されている薬剤と、その治療選択のプロセスについてお聞かせください」
- 「既存の治療法における、アンメットメディカルニーズ、つまり『まだ満たされていない、あるいは改善の余地がある』とお感じになる点は、具体的にどのようなことでしょうか?(例:有効性、安全性、剤形など)」
- 製品プロファイルの提示と評価 (約35分)
- (開発中の新薬候補品のプロファイル資料を提示)
- 「こちらの製品プロファイルをご覧になって、先生がまず直感的に持たれた第一印象をお聞かせください」
- 「この作用機序について、先生はどのようなご見解をお持ちでしょうか?」
- 「この有効性と安全性のデータが実臨床で再現された場合、この薬剤はどのような患者さんにとって、最も良い治療選択肢になるとお考えになりますか?」
- 「逆に、このプロファイルを見て、先生が懸念される点や、慎重になるべきだとお感じになる点はございますか?」
- 開発戦略への示唆とまとめ (約25分)
- 「先生がこの薬剤を処方する上で、意思決定のために『これだけは絶対に確認したい』とお考えになる臨床試験データは、どのようなものでしょうか?」
- 「この薬剤が将来的に上市された場合、どのような情報提供があれば、先生方は適正使用を進めやすいとお考えになりますか?」
- 「本日の内容を踏まえ、今後の本剤の開発を進める上で、我々が考慮すべき最も重要な点がございましたら、ご助言いただけますでしょうか」
定性調査関連おすすめ記事
すぐ使える定性調査の質問例|作り方の手順と深掘りする聞き方のテクニックまとめ
この記事では、定性調査における効果的な質問の考え方から、具体的なインタビューの進め方、そして結果のまとめ方までを解説してきました。
最後に、調査の質を高めるために特に意識すべき重要なポイントを、明日からすぐに使えるチェックリストとして箇条書きでまとめます。
なお、定性調査をより深く、体系的に学ぶための記事もご用意しています。
定性調査の完全ガイド|目的・種類・やり方・分析手法をプロが解説
「そもそも定性調査とは何か?」という基本から、目的や種類、定量調査との違いといった基礎から、分析・レポート作成まで、全体像を体系的に解説した「まとめ記事」です。まずは基本からしっかり押さえたい、という方におすすめです。
- 定性調査は数値化できない「なぜ?」を探るための手法
- 定量調査とは目的やデータ形式、対象者数が本質的に異なる
- 調査の成功はインタビュー前の企画・設計の段階でほぼ決まる
- 目的に合った対象者を的確にリクルーティングすることが大切
- インタビューの質問は導入・事実・深掘りの流れで構成する
- 基本はオープンクエスチョンで相手に自由に語ってもらうこと
- 「はい/いいえ」で終わる質問の多用は会話を途切れさせる
- 「なぜ?」の連続使用は相手に心理的な圧迫感を与える可能性
- 「なぜ」は「どういった背景で?」などの多様な表現に言い換える
- インタビュアーの意見を盛り込んだ誘導尋問は絶対に避ける
- デプスインタビューでは信頼関係(ラポール)の構築が何より大切
- ラダリング法で製品価値と個人の価値観を段階的に結びつける
- インタビュー結果は発言録の作成から丁寧な分析へと進める
- 発言の要約ではなくその背後にあるインサイトを発見する
- 報告書は次のアクションにつながる説得力のあるストーリーを意識する
