定性調査の計画を立てる中で、「結局、調査の対象者は何人くらいが適切なのだろうか?」という疑問に突き当たっていませんか。
定性調査では、統計学で語られる最低サンプル数や信頼度90パーセントといった基準が適用しにいこと、定量調査との違いやサンプル数の考え方に戸惑うこともあるかもしれません。
この記事では、その根拠を一つひとつ丁寧に解き明かし、信頼できるサンプル数とは何かを具体的に解説します。
デプスインタビューの目安をはじめ、グループインタビューやユーザビリティテストの被験者数など、調査の種類ごとに最適な人数設定は異なります。
そして、人数以上に結果の質を左右するリクルーティングの重要性にも触れていきます。この記事を読み終える頃には、自信を持って調査計画を進めるための、確かな指針が得られているはずです。
記事のポイント
- 定性調査と定量調査のサンプル数に関する考え方の根本的な違い
- 調査の目的(仮説構築など)に応じた具体的なサンプル数の目安
- 「情報の飽和」という、サンプル数の妥当性を判断する重要な根拠
- 手法別(インタビューやテスト)の人数設定と対象者選定のコツ
定性調査のサンプル数の基本と人数の根拠

- 調査で結局何人に聞けば良いのか?
- 定量調査 違い サンプル数の考え方
- 信頼できるサンプル数と飽和点の根拠
- 統計学の最低サンプル数と信頼度90
定性調査、何人に聞けば良いのか?
定性調査を計画する際、多くの担当者が最初に直面する課題が「いったい何人の対象者を集めれば十分なのだろうか?」というサンプル数の問題です。
この問いに対する明確な答えは、調査の目的によって変動しますが、一般的な目安としては数人から、多くても50人程度とされています。
なぜなら、定性調査の核心は、アンケートのように量的な傾向を把握することではなく、個々の対象者の行動や発言の背景にある「なぜ(Why)」を深く掘り下げることにあるからです。
一人ひとりの経験や価値観、言葉にされない深層心理といった「質的な情報」を丁寧に集めることに主眼を置いています。
このため、一人から得られる情報の密度が非常に高く、少人数であっても貴重な発見やインサイトを得ることが可能になるのです。
具体的に、調査の目的ごとに推奨されるサンプル数の目安を以下に示します。
ターゲット像の具体化・心理理解
この目的の場合、サンプル数は5人から10人程度が一般的です。
例えば、新しい化粧品のターゲットとなるユーザー像(ペルソナ)を詳細に描きたい場合、対象となる数人に1時間以上の深いインタビューを行うことで、ライフスタイルや価値観、化粧に対する潜在的なニーズまでを鮮明に浮かび上がらせることができます。
ここで大切なのは人数を増やすことよりも、一人の人間を多角的に理解することです。
仮説構築・多様な意見収集
市場の動向を探ったり、新サービスのアイデアに関する仮観を立てたりする段階では、20人から30人程度のサンプル数が考えられます。
このフェーズでは、ある程度の多様な意見に触れることで、共通して見られるパターンや、逆に全く異なる視点を発見することが狙いです。
様々な背景を持つ人々から話を聞くことで、思いもよらなかったニーズや課題の仮説を構築する手助けとなります。
具体的な改善案の抽出
既存の製品やサービスの具体的な問題点を探り、改善策を導き出したい場合は、30人から50人程度のやや多めのサンプル数を設定することもあります。
この段階では、より多くの利用者から具体的な不満点や要望を収集し、改善策の優先順位を判断するための材料を集めることが求められます。
ただし、これもあくまでインサイトの収集が目的であり、統計的な裏付けが必要な場合は別途定量調査を組み合わせるのが一般的です。
もちろん、これはあくまで目安に過ぎません。
サンプル数を考える上で忘れてはならないのが、人数そのものよりも「誰に話を聞くか」という対象者の質です。
いくら人数を集めても、調査目的に合致しない人々からの意見では、価値のある情報は得られません。
定性調査のサンプル数は、まず調査の目的を明確に定義し、そこから逆算して考える必要があります。
計画段階では目安の人数を置きつつも、単なる数字の達成に固執するのではなく、質の高いインサイトをどれだけ深く引き出せるかという視点を常に持つことが肝要です。
定量調査でのサンプル数の考え方と違い

サンプル数と聞くと、多くの人が数百、あるいは数千といった大規模な数字を連想するかもしれません。
それは主にアンケートに代表される「定量調査」のイメージが強いためです。
しかし、定性調査と定量調査では、サンプル数に対する考え方が根本から異なります。この違いを理解することが、適切な調査設計の第一歩となります。
両者の最も大きな違いは、その目的にあります。
要するに、定量調査が物事の「全体像」を数値で把握し、その結果を一般化しようと試みるのに対し、定性調査は個別の事象に対する「深い理解」を追求します。
定量調査は、統計学的な信頼性を担保することが極めて大切になります。
例えば、「全国の20代女性のうち、自社製品の認知度は何パーセントか」を知りたい場合、調査結果を全国の20代女性全体に当てはめて語るためには、統計的な裏付けが不可欠です。
そのため、許容できる誤差の範囲(許容誤差)と、結果の信頼性の高さ(信頼度、一般的に95%など)を設定し、そこから必要なサンプルサイズを算出します。
このプロセスを経ることで、調査結果が単なる一部の人の意見ではなく、母集団全体を反映した客観的なデータとして扱えるようになるのです。
一方、定性調査は統計的な一般化を目的としません。
例えば、「なぜ、あるユーザーは自社製品を熱狂的に支持してくれるのか」という問いを探るのが定性調査です。
この問いに答えるために必要なのは、全体の平均的な意見ではなく、その熱狂的なユーザー一人の詳細なストーリーや価値観、製品との出会いや使い方といった、極めて個人的で深い情報です。
一人から得られる情報の「密度」や「深さ」を重視するため、サンプル数は少数でも問題ありません。
この両者の違いを、以下の表にまとめます。
| 比較項目 | 定性調査 | 定量調査 |
| 主な目的 | 仮説の発見・構築、原因・背景の深掘り | 仮説の検証、実態・傾向の把握 |
| 取得するデータ | 言葉・行動・感情など質的な情報 | 数値・数量(〜%、〜個など) |
| 主な手法 | デプスインタビュー、グループインタビュー、行動観察調査 | Webアンケート、会場調査、電話調査 |
| サンプル数 | 少数(数人〜十数人規模) | 多数(数百人〜数千人規模) |
| 分析方法 | 発言や文脈の解釈、行動の観察・分析 | 統計解析(クロス集計など) |
もちろん、どちらか一方の手法が絶対的に優れているというわけではありません。これらは相互に補完しあう関係にあります。
例えば、まず少人数への定性調査で顧客の深層心理に関する仮説を立て、次にその仮説が市場全体にどれだけ当てはまるのかを大規模な定量調査で検証する、というアプローチは非常に有効です。
調査を計画する際には、まず「何を知りたいのか」という目的に立ち返ることが求められます。
その上で、全体を俯瞰して量的に把握したいのか、それとも個別の事象を深く理解したいのかを見極め、適切な調査手法とサンプル数の考え方を採用することが、有益な結果を得るための鍵となります。
信頼できるサンプル数と飽和点の根拠

「定性調査のサンプル数は少なくても良い」と聞いても、「本当にその少人数で得られた結果を信頼して良いのだろうか」という不安を抱くのは自然なことです。
この調査結果の妥当性や信頼性を担保する上で、非常に重要な概念が「飽和点(ほうわてん)」、あるいは「データサチュレーション」です。
飽和点とは、インタビューの対象者を追加していっても、そこから得られる情報に新しい発見や重要な知見がほとんど見られなくなり、同じような意見やパターンが繰り返されるようになった状態を指します。
この飽和点に達したということは、その調査テーマに関して、主要な意見のバリエーションは出尽くしたと判断できるサインです。
これが、定性調査において「信頼できるサンプル数に達した」と考えるための、強力な質的な根拠となります。
例えば、新しいスマートフォンのコンセプトについてインタビュー調査を進める過程を想像してみてください。
- 1人目から3人目のインタビューでは、デザイン、機能、価格など、全く異なる視点からの意見が次々と出てきます。一つひとつの発言が新鮮で、多くの発見があるでしょう。
- 4人目から7人目になると、既に出た意見との共通項が増え始めます。「その意見は2人目のAさんも言っていたな」と感じることが多くなりますが、まだ細かなニュアンスの違いや、新たな利用シーンの提案などが見つかるかもしれません。
- 8人目から10人目あたりになると、ほとんどの発言が過去のインタビューで聞いた内容の繰り返しになります。インタビュアーが「このテーマについては、主要な論点はほぼ出尽くしたようだ」と確信を持てるようになれば、そこが飽和点です。
この飽和という概念が信頼性の根拠となる理由は、定性調査が目指すのが「意見の網羅性」だからです。
統計的な代表性を追求するのではなく、あるテーマに対して世の中に存在するであろう、主要な意見や行動の「型(パターン)」をできるだけ多く収集することが目標となります。
飽和点に達したということは、その「型」を十分に収集できたことを示唆しており、それ以上サンプル数を増やしても、調査の効率、つまり費用対効果が著しく低下することを示します。
ただし、この飽和点の見極めにはいくつかの注意点が存在します。
第一に、飽和は自動的に訪れるものではなく、その判断には調査者の経験や洞察力が求められます。
単に同じ言葉が繰り返されただけでなく、その背景にある文脈や感情までを考慮して、本質的に新しい情報がないかを見極める必要があります。
第二に、調査対象者の属性が多様な場合は、属性ごとに飽和点を考えることが大切です。
例えば、若年層と高齢者では製品に対する価値観が全く異なるかもしれません。その場合、若年層の意見が飽和しても、高齢者からはまだ新しい意見が出てくる可能性があります。
最も注意すべきは、リクルーティングの偏りです。もし偏った層の対象者ばかりを集めてしまうと、その狭いコミュニティの中だけで意見が飽和してしまい、世の中の多様な意見を見逃すリスクがあります。
定性調査における「信頼できるサンプル数」とは、固定された人数を指すのではなく、「情報の飽和」という質的な状態によって定義されるものだと考えられます。
計画段階で目安の人数を設定することはもちろんですが、実際の調査では常にデータの質を吟味し、飽和点に達しているかを柔軟に見極める視点が不可欠です。
統計学の最低サンプル数と信頼度90パーセントの考え方
マーケティングリサーチの世界、特に定量調査の文脈では、「信頼度90%」や「統計学的に必要な最低サンプル数」といった言葉が、調査の精度を保証するための重要な指標として扱われます。
まず明確にしておくべきは、統計学におけるサンプル数や信頼度の考え方は、定性調査には直接的に適用できない、ということです。その理由は、両者の調査目的の根本的な違いにあります。
統計学で用いられるこれらの概念は、抽出したサンプル(標本)の調査結果から、その背後にある母集団全体の数値を確率的に推定し、一般化するために存在します。
例えば、「信頼度95%、許容誤差±5%」という設定は、「もし同じ調査を100回繰り返したら、そのうち95回は、調査結果と母集団の本当の値との差が±5%の範囲に収まるだろう」ということを意味します。
これは、調査結果を母集団全体に当てはめる際の「ズレ」の大きさをコントロールするための考え方です。
しかし、前述の通り、定性調査の目的は母集団の数値を推定することではありません。
個別の事例を深く、詳細に理解することにあります。したがって、母集団への一般化を前提とした統計学的なサンプルサイズの計算式や、信頼度といった概念自体が、定性調査の目的とは馴染まないのです。
では、定性調査では結果の信頼性をどのように考えれば良いのでしょうか。
それは、統計的な数値ではなく、調査プロセス全体の「質」と「透明性」によって担保されます。以下に、定性調査の信頼性を高めるための具体的なポイントを挙げます。
調査設計の明確化
何を知りたいのかというリサーチクエスチョンを具体的かつ明確に設定することが全ての出発点です。目的が曖昧なままでは、どのような質問をすれば良いかが定まらず、結果として得られる情報の信頼性も低くなります。
対象者選定の妥当性
調査目的に合致した属性の対象者を、いかにして偏りなく見つけ出してきたか、そのリクルーティングのプロセスが透明であることが信頼性を高めます。なぜその人を選んだのかを論理的に説明できることが大切です。
分析プロセスの体系化
インタビューで得られた膨大な発言録を、単なる印象でまとめるのではなく、体系的な手順に沿って分析することが求められます。
例えば、発言を一つひとつ分解して意味の近いもの同士をグループ化する(コーディング)、そのグループ間の関係性を図解するなど、誰が分析してもある程度同じ結論に至るような客観的なプロセスが信頼性を生みます。
複数人による分析
分析を調査者一人の主観に委ねるのではなく、複数の分析者がそれぞれの視点からデータを解釈し、議論を重ねることで、より客観的で偏りのない結論を導き出すことができます。
これを分析者間の三角測量(トライアンギュレーション)と呼ぶこともあります。
これらの点を踏まえると、定性調査の結果を報告する際には、その結果が統計的に証明された事実ではないこと、そしてあくまで特定の条件下で得られた深い示唆であることを明確に伝える誠実な姿勢も、かえって調査全体の信頼性を高める上で有効です。
このようなことから定性調査において「信頼度90%」のような統計学の物差しで信頼性を議論することは不適切です。
むしろ、調査の設計から分析に至るまでのプロセスがいかに丁寧で客観的であるか、その一連の地道な工夫こそが、定性調査の結果に説得力と「信頼性」を与えると言えます。
種類別に見る定性調査 サンプル数の目安

- 主な調査の種類ごとの人数目安
- デプスインタビュー 目安となる人数
- グループインタビューでの参加人数
- ユーザビリティテスト 被験者数の決め方
- 質の高いリクルーティングが重要
- 適切な定性調査 サンプル数設定のコツ
主な調査の種類ごとの人数目安
定性調査と一言で表現しても、そのアプローチ方法は多岐にわたります。そして、どの手法を選択するかによって、推奨されるサンプル数も自ずと変わってきます。
なぜなら、各手法が持つ目的や特性が異なり、それぞれに適した情報の収集方法があるからです。
例えば、一人の人間を深く掘り下げる調査と、複数人の意見の化学反応を期待する調査とでは、当然ながら必要な人数は異なります。
まずは代表的な調査手法の概要と、それぞれでなぜサンプル数の考え方が違うのかを把握することが大切です。
ここでは、読者の皆様が具体的な調査計画を立てる際の参考となるよう、主要な定性調査の手法ごとに、一般的な目的とサンプル数の目安を一覧表にまとめました。
| 調査手法 | 主な目的 | サンプル数の目安 |
| デプスインタビュー | 個人の深層心理の探索、詳細な購買プロセスの解明、ペルソナ作成 | 5名~20名程度 (1セグメントで3から5名) |
| グループインタビュー | 多様な意見の収集、アイデアの発想、コンセプトの受容性評価 | 1グループ4~6名 × 3~4グループ |
| ユーザビリティテスト | 製品・サービスの操作性に関する課題発見、ユーザー体験の観察 | 5名~10名程度 |
| 行動観察調査 (エスノグラフィー) | 無意識の行動や実際の利用文脈の理解、潜在ニーズの発見 | 5名~15名程度 |
この表はあくまで基本的なガイドラインです。
ここで一つ注意すべき点があります。それは、調査対象者を複数の属性(セグメント)に分けて分析したい場合、上記のサンプル数がセグメントごとに必要になる可能性がある、ということです。
このように、調査の目的を達成するためにどの手法が最適かを見極め、分析したい対象者の切り口を明確にすることが、適切なサンプル数を設定するための重要な前提となります。
なお、定性調査の種類に関しては別途記事「定性調査の種類を徹底解説と比較」もあわせてご活用ください。
以降のセクションでは、この表で挙げた各手法について、さらに具体的な人数の考え方を掘り下げていきます。
デプスインタビュー 目安となる人数

デプスインタビューは、調査対象者とインタビュアーが1対1の形式で、1時間から長い時には2時間ほどかけてじっくりと対話を行う調査手法です。
個人の経験や感情、価値観といった深層心理に迫るのに非常に有効な方法であり、その分、一人から得られる情報の密度が極めて高いのが特徴です。
このような特性から、デプスインタビューで推奨されるサンプル数は、1つのセグメントあたり3名から5名、調査全体としては10名から20名程度が一般的な目安とされています。
一見すると非常に少なく感じるかもしれませんが、これには明確な理由が存在します。
その最大の根拠は、前のセクションでも触れた「情報の飽和」という概念です。
デプスインタビューは非常に情報密度が高いため、比較的少ない人数で主要な意見や行動のパターンが出尽くし、飽和点に到達する傾向があります。
多くのケースで、8人前後へのインタビューを終える頃には、新しい発見が著しく減り、同じような話が繰り返されるようになります。
具体的な場面を想定してみましょう。
例えば、ある特定のブランドの熱心なファン、いわゆるヘビーユーザーを対象にペルソナを作成したい場合を考えます。
このとき、3人から5人の対象者にデプスインタビューを行うだけでも、彼らに共通するライフスタイル、ブランドとの出会い、製品へのこだわりといった要素がくっきりと浮かび上がり、非常に解像度の高いペルソナを描くための十分な材料を得ることが可能です。
一方で、まだ市場が形成されていない新しいサービスの可能性を探るような、探索的な調査の場合はどうでしょうか。
このようなケースでは、あえて多様な価値観を持つ人々を対象とし、10名から15名程度にインタビューを行うことがあります。
これは、様々な視点からインサイトの「種」を広く集め、事業の方向性を模索することを目的としているためです。
ただし、デプスインタビューを成功させるには、いくつか注意すべき点があります。
少人数で実施するからこそ、インタビュアーが対象者と良好な信頼関係を築き、話の本質を巧みに引き出すスキルが、調査結果の質を大きく左右します。
また、どのような属性の人を対象とするかというセグメント設計も極めて大切です。分析したいセグメントごとに最低でも3名は確保しないと、そのセグメント特有の傾向を語ることは難しくなるでしょう。
これらの点を踏まえると、デプスインタビューのサンプル数は、情報の飽和という質的な観点と、分析したいセグメントの数を掛け合わせて決定されるべきだと言えます。
単に人数を増やすことを目指すのではなく、一人ひとりの対象者と真摯に向き合い、いかに深く豊かな情報を引き出すかに注力することが、調査を成功に導く鍵となります。
グループインタビューでの参加人数

複数の対象者を一つの会場やオンライン空間に集め、座談会のような形式で特定のテーマについて自由に意見を交わしてもらう。
これがグループインタビューです。この手法の最大の魅力は、参加者同士の発言が刺激となり、一人では思いつかなかったような新しいアイデアが生まれたり、共感や反論を通じて意見がより深まったりする「グループダイナミクス(集団力学)」にあります。
このような特性を持つため、グループインタビューの参加人数を考える際には、「1グループあたりの最適な人数」と「実施するグループの数」という2つの軸で検討することが不可欠です。
まず、1グループあたりの人数ですが、一般的には4名から6名が最適とされています。この人数には、円滑で実りある議論を生むための理由があります。
もし参加者が3名以下と少なすぎる場合、意見が多様化しにくく、会話が途切れて沈黙が生まれやすくなる可能性があります。
逆に7名以上と多すぎると、全員が均等に発言する時間を確保するのが難しくなります。
結果として、発言力のある特定の人物の意見に議論が引きずられたり、控えめな性格の人がほとんど話せずに終わってしまったりするリスクが高まるのです。4名から6名という人数は、全員が気兼ねなく発言でき、かつ多様な意見が交錯することでグループダイナミクスが生まれやすい、絶妙なバランスと考えられています。
次に、実施するグループの数です。
通常、3グループから4グループ実施するのが標準的な設計です。なぜ複数のグループで調査を行う必要があるのでしょうか。
それは、調査結果の信頼性と再現性を高めるためです。もし1グループだけで調査を終えてしまうと、そこで出た結論が、そのグループの特異なメンバー構成や、その場限りの雰囲気によって生まれた偶然の産物である可能性を否定できません。
しかし、異なるメンバーで構成された複数のグループで調査を行い、それらのグループ間で共通して語られる意見と、特定のグループだけで見られたユニークな意見を比較検討することで、より確度の高いインサイトを抽出できます。
例えば、3つのグループ全てで「この商品のデザインは使いにくい」という意見が出れば、それはかなり本質的な課題であると判断できるでしょう。
以上のことから、グループインタビューの人数設定は、活発な議論を促すための「1グループの人数」と、結果の客観性を担保するための「グループ数」の両面から慎重に検討することが求められます。
この設計を適切に行うことで、個々の意見の単純な足し算以上の、豊かで多角的なインサイトを得ることが可能になるのです。
ユーザビリティテスト 被験者数の決め方

自社が提供するウェブサイトやアプリケーション、製品などが、ユーザーにとって「本当に使いやすいか」を検証するユーザビリティテスト。
このテストを実施する上で、「一体、何人の被験者(参加者)がいれば、十分な問題点を発見できるのか」という問いは、この分野における長年のテーマでした。
この問いに対して、現在最も広く受け入れられている考え方があります。
それは、ユーザビリティ研究の世界的権威であるヤコブ・ニールセン博士が提唱した、「5人のユーザーでテストすれば、ユーザビリティ上の問題の約85%を発見できる」というものです。(出典: Nielsen Norman Group, “Why You Only Need to Test with 5 Users“)
なぜ、たった5人という少ない人数で、これほど多くの問題を発見できるのでしょうか。その背景には、収穫逓減の法則に基づいた数学的な根拠があります。
最初の1人目の被験者にテストをしてもらうと、最も致命的で分かりやすい問題点が次々と明らかになります。2人目、3人目とテストを続けると、もちろん新たな問題も発見されますが、同時に1人目が見つけた問題と同じ問題に遭遇する確率がどんどん高まっていきます。
そして、5人のテストを終える頃には、ほとんどの主要な問題は発見され尽くした状態になります。
6人目以降のテストで全く新しい問題が発見される可能性は非常に低くなり、投じる時間やコストに見合った成果が得られにくくなるのです。
反復的なテストサイクルの重要性
ニールセン博士が本当に強調しているのは、人数そのものよりも「テストと改善のサイクルを繰り返すこと」です。
一度に20人で大規模なテストを行うよりも、まず5人でテストして見つかった課題をすぐに修正し、その改善版で新たに別の5人にテストを行う、というサイクルを繰り返す方が、はるかに効率的かつ効果的に製品の使いやすさを向上させることができます。
対象者セグメントの考慮
テストしたいユーザーの属性が明確に分かれている場合は、セグメントごとに5人の被験者が必要になります。
例えば、ECサイトのユーザビリティをテストする際に、「PCで利用するユーザー」と「スマートフォンで利用するユーザー」では、操作性に関する課題が全く異なる可能性があります。
この場合、PCユーザー5人、スマホユーザー5人の合計10人でテストを行うのが適切な設計です。
定量的なデータが必要な場合
もし、タスクの完了率や所要時間といった「量的」なデータを統計的に分析し、「改善前と改善後でどちらが優れているか」を客観的に証明したい場合は、5人というサンプル数では不十分です。
このような性能評価を目的とする場合は、統計的な有意差を検出するために、最低でも20人以上の被験者が必要になると言われています。
以上の点を踏まえると、ユーザビリティテストの被験者数は、使い勝手の「課題発見」を主目的とするならば、「1セグメントあたり5人」というのが、長年の研究と実践に裏打ちされた非常に効率的な目安となります。
重要なのは、一度に完璧を目指すのではなく、少人数でのテストと改善のサイクルを素早く回していくというアプローチそのものです。
質の高いリクルーティングが重要
これまで、様々な調査手法ごとに適切なサンプル数の目安を解説してきました。しかし、いくら理論的に完璧な人数を設定したとしても、調査の成否を最終的に決定づける、もう一つの極めて重要な要素が存在します。
それが、調査に参加してくれる対象者をいかにして集めるか、すなわち「リクルーティング」の質です。
質の高いリクルーティングとは、単に決められた人数を集める作業ではありません。
その本質は、「調査目的に完全に合致した人物を、偏りなく、かつ誠実な態度で募集し、選定する」プロセス全体を指します。
もしこの対象者の選定、つまりリクルーティングを誤ってしまうと、その後の調査で得られるすべての情報が的外れなものとなり、時間とコストが無駄になるだけでなく、誤った意思決定を導きかねません。
質の低いリクルーティングがもたらすリスクを、具体的な失敗例で見てみましょう。
- スクリーニング条件の不備: 例えば「週に1回以上コンビニを利用する人」という条件で募集したつもりが、実際には月に1回程度しか利用しない人が混じってしまうと、日常的な利用を前提とした議論が成り立たなくなります。
- 対象者の偏り: 調査に協力することに慣れている、いわゆる「調査モニターのプロ」のような人ばかりが集まってしまうケースです。彼らの意見は、新鮮で本質的なものではなく、どこかで聞いたことがあるような一般論や、「調査者が求めていそうな模範解答」に偏ってしまう傾向があります。
- 不誠実な参加動機: 調査テーマへの関心は全くなく、高額な謝礼金だけが目的で参加する人もいます。このような対象者にいくら話を深掘りしようとしても、当たり障りのない表面的な回答しか得られず、貴重な調査時間を浪費することになります。
年齢や性別といった基本的な属性情報だけでなく、製品の利用頻度や利用期間、ライフスタイル、特定のテーマに関する価値観などを問う質問をスクリーニングアンケートに組み込み、対象者を多角的に絞り込むことが鍵となります。
自由回答の活用
スクリーニングの段階で、テーマに関する考えを自由に記述してもらう欄を設けるのも有効です。
その回答内容から、対象者の思考力や言語化能力、そして何よりも調査テーマに対する熱意や関心の度合いを推し量ることができます。
矛盾回答のチェック
回答の信頼性を担保するために、スクリーニングアンケートの中に、同じことを聞き方を変えて質問するような設問を仕込み、矛盾した回答をしていないかを確認する手法も用いられます。
多様な募集チャネルの確保
自社の顧客リストだけに頼らず、調査会社のモニターパネルやSNS広告、専門コミュニティへの呼びかけなど、複数のチャネルから募集することで、対象者が特定の層に偏るのを防ぐことができます。
このように、定性調査は対象者一人ひとりから深く貴重な情報を得る手法であるからこそ、その「一人ひとり」が誰であるかが決定的に重要になるのです。サンプル数という「量」の議論を進めると同時に、リクルーティングという「質」の確保にこそ、最大の注意と労力を払うべきだと言えるでしょう。
定性調査のサンプル数に関してよくある質問
- Q定性調査は結局、何人集めれば十分ですか?
- A
的により幅があり、ターゲット像の具体化や心理理解なら5~10人、仮説構築や多様な意見収集なら20~30人、具体的な改善案の抽出では30~50人を目安に設計します。ただし人数の正解は固定ではなく、新しい発見が出にくくなる「情報の飽和」に達したかどうかで打ち止めを判断し、人数よりも対象者の質を優先します。
- Q「信頼度90%」や統計学の最低サンプル数は定性調査でも必要ですか?
- A
定性調査は母集団に一般化することが目的ではないため、定量調査のような信頼度や最低サンプル数の基準は直接当てはまりません。信頼性は、調査設計の明確化、偏りの少ない対象者選定、体系だった分析手順、複数人による分析検討など、プロセスの質と透明性で担保します。数で裏づけたい判断は、定量調査を組み合わせて検証します。
- Q手法ごとの人数目安はどれくらいですか?
- A
デプスインタビューは1セグメントあたり3~5人、全体で5~20人程度が一般的です。グループインタビューは1グループ4~6人で3~4グループ実施すると再現性が高まります。ユーザビリティテストは課題発見が目的なら1セグメント5~10人程度で反復実施が効率的です。行動観察(エスノグラフィー)は5~15人程度を目安にし、属性が分かれる場合はセグメントごとに人数を確保します。
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この記事では、定性調査のサンプル数に関する基本的な考え方から、具体的な手法ごとの目安、そして結果の信頼性を担保するためのポイントまで、幅広く解説してきました。
サンプル数は、あくまで調査計画を立てる上での出発点に過ぎません。
最も大切なのは、目の前にいる対象者一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、その言葉の背景にある物語や価値観を理解しようとする姿勢です。この基本を忘れずに、ぜひ有益な調査を実践してください。
以下に本記事のポイントをまとめましたのでチェック・リストしてもご活用ください。
なお、調査全体のプロセスを体系的に学びたい方は、顧客インサイトを掘り起こすための完全ガイドもあわせてぜひご活用ください。
- 定性調査のサンプル数は数人から数十人程度が目安
- 目的は量的な把握ではなく質的な深い理解にある
- 定量調査とはサンプル数の考え方が根本的に異なる
- ターゲット像の具体化なら5人から10人が目安
- 仮説構築を目指すなら20人から30人程度を検討
- 具体的な改善案の抽出には30人から50人も視野に
- 「情報の飽和」がサンプル数の妥当性を判断する鍵
- 新しい発見が得られなくなったら飽和点のサイン
- 統計学的な信頼度や最低サンプル数の概念は用いない
- 調査手法によっても推奨される人数は変わってくる
- デプスインタビューは1セグメントあたり3人から5人
- グループインタビューは1グループ4人から6名が最適
- ユーザビリティテストは5人の被験者で課題の85%を発見
- 人数以上に「誰に聞くか」という対象者の質が重要
- 質の高いリクルーティングが調査の成否を分ける
