バイオテクノロジー企業Replimuneが開発を進める、進行期メラノーマ(悪性黒色腫)治療用のがんウイルス製剤「RP1(vusolimogene oderparepvec)」について、米食品医薬品局(FDA)は現時点での承認を見送りました。
この決定は、主に臨床試験における有効性の証明が不十分であると判断されたことによるものです。
この記事では、FDAの判断の背景、Replimuneの今後の対応方針、RP1の技術的特徴、さらには類似の事例を通して近年の規制動向を解説します。
RP1の承認見送りとその影響:FDA審査とがんウイルス療法の今後

- FDAが承認に至らなかった背景
- Replimuneが示した今後の対応方針
- RP1の構造と医療的な可能性
- 他社事例とFDAの審査姿勢の変化
FDAが承認に至らなかった背景
Replimuneが申請していたRP1の生物製剤承認(BLA)について、FDAは2025年7月、現段階では承認ができないとする「Complete Response Letter(CRL)」を発行しました。
この書簡では、臨床試験データの質や設計に関して複数の懸念点が挙げられています。
主な指摘は、第I/II相試験「IGNYTE」に関するものでした。対象となった患者は、すでにPD-1阻害薬による治療で効果が得られなかった140人で、RP1とOpdivo(nivolumab)を併用した結果、奏効率は32.9%に達したと報告されています。
しかし、FDAはこの試験について、患者背景のばらつきが大きく、治療効果を客観的に評価するには不十分であるとしています。あわせて、確認試験の設計についても見直しが必要とされています。
Replimuneが示した今後の対応方針
この通知を受け、Replimuneは「驚きと遺憾の意」を表明しています。CEOのSushil Patel氏は、中間審査や後期レビューにおいて同様の指摘がなかったことを強調し、今回の内容は想定外だったとコメントしました。
今後、同社はFDAとの協議の場として「Type Aミーティング」を申請し、今後の方針について早急にすり合わせを行う方針です。ミーティングは通常、申請から30日以内に開催されるとされています。
また、現在進行中の第III相試験「IGNYTE-3」では、Opdivoとの併用療法と医師が選択する標準治療との比較が行われており、ここでのデータが次なる申請の鍵になると見られています。
RP1の構造と医療的な可能性
RP1は、Replimuneが独自に開発したがんウイルス製剤であり、遺伝子改変を加えた単純ヘルペスウイルス(HSV-1)を基盤としています。このウイルスには、細胞膜を融合させるタンパク質「GALV-GP R-」と、免疫刺激を促す「GM-CSF」が導入されています。
この構造により、次のような多面的な治療効果が期待されています。
- 腫瘍内での直接的なウイルス増殖によるがん細胞破壊
- 腫瘍抗原の放出による免疫系の活性化
- 免疫チェックポイント阻害薬との併用による相乗作用
Replimuneは、こうした仕組みにより、RP1が従来治療が効かなくなった患者にも新たな選択肢を提供できると考えています。
他社事例とFDAの審査姿勢の変化
Replimuneの今回の事例は、近年のFDAにおける審査基準の厳格化を反映したものといえます。実際、同じ2025年7月には、Capricor Therapeuticsの細胞治療薬「deramiocel」も同様に承認には至っていません。
この製品も、事前のレビュー段階では大きな問題は見られなかったものの、最終的には「有効性を十分に証明するには追加データが必要」とされました。こうした動向から、FDAは従来以上に明確かつ一貫したエビデンスを求める傾向が強まっていることがうかがえます。
さらに、FDAは過去の「Complete Response Letter(CRL)」を200件以上公開するなど、審査過程の透明性向上にも取り組んでいます。この方針により、企業側もより綿密な戦略設計とデータ構築を求められる時代に入ってきています。
まとめ:Replimuneのがんウイルス療法「RP1」、FDAが承認に至らず 臨床試験データに課題
- RP1はがんウイルス療法として開発され、Opdivoとの併用が想定されていた
- FDAは臨床試験データの一貫性と設計上の課題から承認を見送った
- IGNYTE試験では32.9%の奏効率が示されたが、解釈の困難さが指摘された
- 同社はType Aミーティングを通じて、開発継続の道筋を探る意向を示している
- 現在進行中の第III相試験IGNYTE-3の結果が今後の鍵となる
- RP1は免疫刺激と腫瘍破壊の両機能を備えた設計である
- CRLは今後の再申請や試験設計に対するガイダンスともなる
- Capricorの製品にも同様の事例があり、審査基準の厳格化が明確になっている
- FDAは透明性向上を進め、企業への情報提供も拡充している
- 開発企業は早期段階から明確なエビデンス構築が求められる状況である
