シンガポール発のGero社、構造情報不要のAI創薬モデル「ProtoBind-Diff」発表 ― タンパク質配列だけで薬剤候補生成

シンガポール発のGero社、構造情報不要のAI創薬モデル「ProtoBind-Diff」を発表 ― タンパク質配列だけで薬剤候補を生成 ニュース

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シンガポール発のバイオテクノロジー企業Geroは、全く新しいアプローチで低分子化合物を創出するAIモデル「ProtoBind-Diff」のリリースを発表しました。

このモデルは、従来の構造情報を必要とせず、タンパク質のアミノ酸配列のみを用いて創薬候補となる化合物を設計します。

Google DeepMindのAlphaFold 3などの構造ベース技術とは異なるこの技術は、創薬における新たなパラダイムとなる可能性を秘めています。

すでにGeroはファイザーとの共同研究を進めており、今後はがんや免疫、感染症、加齢関連疾患分野での応用も視野に入れています。

Gero社のAI創薬モデル「ProtoBind-Diff」の革新性

市場調査 海外
  • タンパク質配列から直接化合物を生成する仕組みとは
  • 既存モデルとの比較評価とその優位性
  • 今後の展開と共同研究の可能性

タンパク質配列から直接化合物を生成する仕組みとは

ProtoBind-Diffは、AI技術の一つである「マスク付き拡散言語モデル」を基盤としています。このモデルは、100万件以上のタンパク質-リガンド対のデータを学習しており、3次元構造を必要とせずに、配列情報だけを用いて薬剤候補を生成します。

本来、創薬では分子とタンパク質の立体構造の相互作用を精緻にシミュレーションすることが求められてきました。

しかし、そのためには膨大な計算資源が必要であり、データ自体も限定的でした。一方でProtoBind-Diffは、配列レベルのデータというより広範かつアクセスしやすい情報に着目しています。これにより、従来の手法では困難だった標的にもアプローチできる柔軟性が生まれます。

注目すべき点は、物理シミュレーションを行うのではなく、実際の生物活性データから「バイオアクティビティの文法」を学習するという点です。

創薬の観点から見ると、これは全く新しい考え方に基づいた化合物生成手法と言えるでしょう。

既存モデルとの比較評価とその優位性

ProtoBind-Diffの性能は、すでに構造ベース創薬の中核とされているモデルと比較されました。

特に評価に用いられたのは、AlphaFold 3の思想を継承した構造予測モデル「Boltz-1」です。これは、タンパク質とリガンドの結合様式を予測し、結合の強さを定量的に示す指標を提供します。

この比較において、ProtoBind-Diffは構造が明確にわかっている「容易な標的」だけでなく、構造情報が不十分な「難しい標的」においても、Pocket2MolやTargetDiffなどの従来モデルと同等、あるいはそれ以上の性能を示しました。

具体的には、以下の点が評価されています。

  • 訓練時に3D構造を一切使用しないにもかかわらず、生成された分子が既知の結合残基に対応する傾向を示した点
  • 化学的多様性が高く、合成可能性にも優れた新規分子が得られた点
  • Boltz-1によるスコア評価で、特に構造情報が乏しい標的での成績が高かった点

これらの成果は、ProtoBind-Diffが「配列だけから空間的な予測能力を獲得している」ことを意味しており、従来手法を補完あるいは代替しうる実用性を示しています。

今後の展開と共同研究の可能性

現在、GeroはこのProtoBind-Diffを自社の創薬パイプラインに正式に統合しています。また、ファイザーとの線維症治療に関する研究に加え、新たなパートナー企業との協業を目指して積極的な展開を開始しています。

今後の適用対象として想定されているのは、以下のような領域です。

  • がん治療を含む腫瘍免疫分野
  • ウイルスや細菌など感染症への対応
  • 高齢化に関連する疾患と老化メカニズムの解明

特に、パンデミック対応や、従来標的にされにくかった「構造不安定なタンパク質」などへの応用が期待されており、ProtoBind-Diffの柔軟性と汎用性が活かされる領域となるでしょう。

また、Geroの主任科学者であるコンスタンチン・アフチャシオフ博士は、「現時点ではまだ発展途上であるが、今後さらに多様なタンパク質クラスのデータを追加すれば、性能は大幅に向上するだろう」と述べており、モデルの継続的な進化にも期待が高まります。

まとめ

ProtoBind-Diffは、構造情報を用いずに低分子化合物を設計するという点で、これまでの創薬アプローチとは一線を画す革新性を持っています。広範な配列データに基づいて生成される薬剤候補は、既存のツールと比べて高い柔軟性と多様性を備えており、創薬の幅を大きく広げる可能性を秘めています。

今後は、製薬企業との連携を通じて、がんや感染症、高齢化関連疾患といったさまざまな医療課題に対する具体的な解決策として実用化が進むことが期待されます。既存技術に縛られない創薬の新たな可能性として、ProtoBind-Diffの今後の進展に注目が集まります。

シンガポール発のGero社、構造情報不要のAI創薬モデル「ProtoBind-Diff」を発表

  • Geroが新たなAI創薬モデル「ProtoBind-Diff」を公開
  • モデルは3D構造を用いずアミノ酸配列のみで化合物を生成
  • 100万件超のタンパク質-リガンド対データを学習に活用
  • 物理シミュレーションではなく生物活性の文法を学習
  • 高い新規性と薬剤らしさを持つ低分子化合物を生成可能
  • 既存の構造ベースAIと比較して同等以上の性能を示す
  • 特に構造情報が少ない標的での優位性が際立つ
  • AlphaFold 3に着想を得たBoltz-1で性能を評価
  • モデルはSMILES形式で分子構造を出力
  • 学習時に3D情報がなくても結合部位に整合する注目傾向が出現
  • AutoDock Vinaなどの古典的手法と比較しても高性能
  • 公開されたGitHubでオープンソースとして提供
  • Geroはモデルを自社の創薬パイプラインに統合済み
  • 今後はがんや免疫、感染症、高齢化関連領域での応用を目指す
  • ファイザーとの線維症治療に関する共同研究も進行中

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