米イーライリリー社は、アルツハイマー病の早期症状を対象とした治療薬「Kisunla(キスンラ)」について、アメリカ食品医薬品局(FDA)より新たな投与スケジュールに基づくラベル改訂の承認を受けました。
この改訂により、治療に伴う脳の腫れ(ARIA-E)のリスクが従来より大幅に軽減されることが明らかになっています。
臨床試験により、有効性を維持しつつ副作用を抑える新たな投与法の安全性と効果が確認され、医療現場における治療の選択肢として注目を集めています。
Kisunlaの新投与スケジュールが示す安全性の進展

- 新スケジュール導入の背景と目的
- TRAILBLAZER-ALZ 6試験の主な結果
- 他治療薬との比較と臨床上の位置づけ
- 注意すべき副作用と対処方法
新スケジュール導入の背景と目的
Kisunlaは、アミロイドβを標的とする抗体医薬として、アルツハイマー病の進行を遅らせることを目的としています。しかし、従来の投与法では、投与初期に副作用として「ARIA-E」と呼ばれる脳浮腫が一定の割合で発生していました。この課題を受けて、より安全な投与設計が模索される中、今回の新スケジュールが臨床試験を経て承認されるに至りました。
新たなスケジュールでは、最初の3回の点滴で用量を段階的に増やす「漸増投与」が導入されており、これにより副作用の発生率が大幅に減少しています。投与される薬剤の総量は変更せず、配分のみを調整するという比較的簡素な変更であるにもかかわらず、その臨床的意義は大きいと評価されています。
TRAILBLAZER-ALZ 6試験の主な結果
このラベル改訂の根拠となったのが、TRAILBLAZER-ALZ 6というフェーズ3b試験です。対象は早期症状を示すアルツハイマー病患者843人で、約1年間にわたり、安全性と有効性が比較されました。
試験の結果、漸増投与群ではARIA-Eの発生率が24週時点で14%、52週時点で16%と、従来群のそれぞれ24%、25%と比較して顕著に低下しました。
特筆すべきは、アミロイド斑の除去やP-tau217の低下といった薬剤本来の効果が、両群で同等に認められた点です。安全性を高めながら、治療効果を損なわないというバランスの取れた結果となりました。
また、治療による副作用として、軽度の過敏症反応や点滴関連反応が若干増加した点には留意が必要です。ただし、新たな深刻な副反応は確認されていません。
他治療薬との比較と臨床上の位置づけ
Kisunlaは、競合するLeqembi(レカネマブ)と並んで、現在最も注目されているアミロイドβ除去薬の一つです。両薬剤は類似の治療対象に対し承認されており、安全性や投与方法が治療選択の決め手になる場面が増えています。
Leqembiは隔週投与を基本としており、投与期間が長く設定されているのに対し、Kisunlaは月1回の点滴に加え、アミロイドが減少すれば治療終了も可能な「有限投与」の設計が魅力です。
今回の新スケジュールにより、Kisunlaの安全性が向上したことで、治療開始への心理的・臨床的ハードルが下がる可能性があります。これは、治療対象となる軽度認知障害や軽度認知症患者にとって、より実行可能な選択肢となることを意味しています。
注意すべき副作用と対処方法
Kisunlaに限らず、アミロイドβに作用する治療薬では、ARIA(脳の浮腫や微出血)が代表的な副作用です。多くの場合は無症状で経過しますが、ごく稀に頭痛や吐き気、歩行困難、意識障害といった症状が現れることもあります。
特に、遺伝的にリスクの高いApoE ε4遺伝子を持つ患者や、抗血栓薬を服用している方はARIAの発生リスクが高まることが知られています。したがって、治療前後にはMRIによる脳スキャンを継続的に行うことが推奨されています。
また、Kisunlaの点滴は医療機関で行われ、30分程度の観察期間を設けた上で帰宅できる体制が整えられています。初回の投与時にはアレルギー反応への注意も必要です。
まとめ:アルツハイマー治療薬「Kisunla」新たな投与法がFDA承認 副作用リスクを大幅軽減
- Kisunlaの新たな漸増投与スケジュールがFDAに承認された
- 投与法の変更によりARIA-Eの発生率が大幅に低下した
- 総投与量は変更せず、初回から第3回までの配分を調整
- 治療効果(アミロイド除去・P-tau低下)は従来通り維持された
- 重篤な新規副作用は確認されていない
- 点滴による治療で、月1回・30分程度の所要時間
- 有限期間の投与が可能で、患者負担の軽減が期待される
- Leqembiとの比較で、安全性の向上が大きなアピール材料に
- ApoE遺伝子や抗血栓薬との関係に注意が必要
- 新スケジュールにより医療現場での導入が進む見込み
