がん研究の最前線で進む臨床試験の多くは、従来、大学病院を中心とした一部の施設で行われてきました。
しかし、アメリカ国内で治療を受けるがん患者のおよそ8割は、地域の医療機関に通っています。この現状と、進行する研究資金の不確実性を背景に、臨床研究の在り方そのものが問われ始めています。
今回紹介するウェビナー「Expanding access, accelerating trials: The power of community-based oncology research」では、地域主導型の臨床研究体制がもたらす新たな価値に焦点が当てられました。
講演者には、がん研究機関「START」や大手製薬会社のリーダーたちが参加し、現場から見た課題と可能性、そして具体的な解決策が提示されました。
この記事では、ウェビナーの内容に基づき、地域拠点型研究の実例や意義を紐解きながら、今後の臨床試験の方向性について考察していきます。
ウエビナー概要
- タイトル:Expanding access, accelerating trials: The power of community-based oncology research
- 形式:オンデマンド配信(録画視聴型)
- 日時:2024年6月24日(月)午前10時30分(米国東部時間)
→ 日本時間:2024年6月24日(月)午後11時30分 - 視聴方法:登録制(視聴無料)
- 配信元:Endpoints News(エンドポイント・ニュース)主催
- 対象者:製薬企業関係者、医療機関の研究担当者、臨床開発従事者、患者支援団体、がん治療に関心のある方
- 言語:すべて英語です
- 登録後は、無料で録画映像を何度でも視聴可能です。
地域主導型がん研究が切り拓く臨床試験の未来

- 地域医療で広がる先端治療のアクセス
- 臨床試験のスピードと効率化
- 財政不安と制度疲労への備え
- 試験の多様性と公平性をどう実現するか
- 登壇者が語る現場の戦略と視点
地域医療で広がる先端治療のアクセス
がん患者の大多数は、都市部ではなく地方や郊外にある地域病院で治療を受けています。しかし、従来の臨床試験は大規模な学術機関に集中していたため、多くの患者が新しい治療法にアクセスできない状況が続いてきました。
こうしたギャップに対応するため、STARTが主導する新たな研究モデルでは、地域医療機関と連携したネットワーク体制を構築しています。これにより、患者は生活圏を離れることなく治験に参加できるようになり、治療への心理的・経済的ハードルも大きく下がりました。
医療の公平性という観点から見ても、このアプローチは極めて意義深く、今後さらに拡大が期待される分野です。
臨床試験のスピードと効率化
研究開発において「時間」は極めて重要な要素です。特にがん治療では、一日でも早い試験の進行が患者の命に直結する場合があります。
地域拠点型モデルでは、試験開始の準備期間が短縮され、被験者の登録スピードも向上しています。その理由の一つは、地域施設に既に備わっている経験豊富な人材と、柔軟な運営体制にあります。
従来のように中央集権的な調整を必要とせず、現場主導で対応できる点も、迅速な進行を支える要因となっています。結果として、新薬開発の全体スケジュールも前倒しされ、より早く患者のもとに治療が届く環境が整いつつあります。
財政不安と制度疲労への備え
近年、NIH(米国国立衛生研究所)などからの研究資金に対する不安が増しており、大学病院を中心とする研究インフラは持続可能性に課題を抱えています。加えて、病院自体の収益構造も圧迫されており、研究活動が後回しにされる傾向も強まっています。
こうした背景に対し、地域医療機関を分散的に活用するモデルは、単一の財源や制度に依存しない柔軟な体制を提供します。特定の機関にトラブルがあっても、ネットワーク全体でのリカバリーが可能であり、研究の継続性を担保する仕組みとなっています。
このようなレジリエンスの高さは、変化の激しい医療分野において今後さらに価値を増していくと考えられます。
試験の多様性と公平性をどう実現するか
従来の臨床試験は、特定地域や限られた人口層に偏りがちで、結果として集められたデータの多様性に限界がありました。その結果、承認された治療法がすべての患者にとって最適とは言い切れないケースも生まれていました。
地域ベースでの試験実施により、地理的・社会的に異なる背景を持つ被験者が参加しやすくなります。ウェビナーではこの取り組みが、臨床データの質と信頼性を向上させている事例として複数紹介されました。
試験の対象が現実の患者層に近づけば近づくほど、その成果はより実用的かつ公平性のあるものになるはずです。
登壇者が語る現場の戦略と視点
本ウェビナーには、がん研究、製薬業界、医療現場の各分野から、経験豊かな講演者たちが参加しました。以下に主要登壇者とその注目ポイントを紹介します。
Nick Slack(STARTセンター CEO)
長年にわたって臨床研究の革新に取り組んできたリーダーであり、地域ネットワークの構築を推進。医療倫理の専門知識も活かし、研究の質と患者安全の両立を図っています。
Jacob S. Van Naarden(イーライリリー社 オンコロジー部門プレジデント)
研究開発と商業戦略を統括し、治療開発から患者の元への届け方まで広範に関与。特に製薬企業と地域医療機関の連携強化に力を入れています。
Peyton Howell(Parexel CEO)
数十年にわたる製薬支援サービスの経験をもとに、治験参加の支援体制を強化。患者目線での試験設計に重点を置いています。
Kamran Ansari(ファイザー 臨床開発部門 SVP)
バイオテクと大手製薬の両方を経験し、迅速かつ質の高い臨床運営を推進。試験の効率性と患者中心性の両立を重視しています。
Chris Takimoto(STARTセンター CMO)
医師・研究者として豊富な実績を持ち、企業と学術の両視点から早期試験の実務を熟知。現場と戦略の橋渡し役を担っています。
それぞれの登壇者が異なる立場から「地域に根差した研究体制」の必要性を訴えたことは、本ウェビナーのメッセージをより強く印象づけるものでした。
地域に広がるがん研究の新潮流:臨床試験を加速させる地域拠点型モデルの可能性|Endpoints Webinar
- 地域医療機関と連携する新たな臨床研究モデルが拡大中
- 先端治療へのアクセス格差が改善されつつある
- 試験開始のスピードが加速し、運営コストの削減にもつながる
- 財政や制度の不確実性に強い柔軟な研究体制が構築可能
- 多様な被験者層を反映した、現実に即したデータ取得が可能に
- 経験豊富な業界リーダーたちが、現場視点で戦略を共有
