「アンケートだけでは見えてこない顧客の本音を知りたい」「データはあるのに、なぜユーザーが離脱するのか分からない」そんな課題に直面した時、強力な武器となるのがデプスインタビューです。
しかし、いざ実施を検討しても、デプスインタビューとは何か、その明確な理由や気になる費用が分からなければ、一歩を踏み出すのは難しいかもしれません。
効果的なインタビューのやり方を学び、適切な質問項目を考え、時にはテンプレートを参考にしながら、質の高い対話を実現する必要があります。
この記事では、新商品開発やそのコンセプト設計、既存のサービス改善に繋がる深い顧客理解、さらにはカスタマージャーニーマップの解像度向上といった目的別の具体的な事例を交えながら、その価値を解き明かしていきます。
記事のポイント
- デプスインタビューの基本的な定義や目的、費用相場
- インタビューを成功させる質問の作り方と聞き方のコツ
- 新商品開発やサービス改善など目的別の具体的な成功事例
- 自社の課題解決にデプスインタビューを活かす方法
デプスインタビューの基本と代表的な活用事例

- デプスインタビューとは?その理由と費用
- デプスインタビューの主な活用ケース
- デプスインタビューの費用について
- デプスインタビューを活用する理由と必要性
- 失敗しない質問項目・テンプレ・聞き方のコツ
デプスインタビューとは?その理由と費用
デプスインタビューは、調査対象者とインタビュアーが1対1の形式で深く対話し、個人の意見やその背景にある深層心理、本人さえも意識していない潜在的なニーズを探り出す定性調査の手法です。
一人の対象者に対して通常60分から90分程度の時間をかけて、じっくりと話を聞き出します。
この手法がマーケティングリサーチにおいて重視される背景には、アンケートなどの定量調査だけでは捉えきれない消費者の「なぜ?」を解明できる点にあります。
例えば、アンケートで「価格が高いから購入しなかった」という回答が多く得られたとしても、デプスインタビューで深く掘り下げてみると、真の理由は「価格に見合う価値を感じさせるデザインではなかった」「自分のライフスタイルに合っている姿を想像できなかった」といった、より感覚的で複雑な心理が隠れている場合があります。
このような数値化しにくい感情や価値観こそが、購買行動を左右する決定的な要因となることは少なくありません。
したがって、デプスインタビューは、企業側の思い込みや仮説のズレを修正し、消費者のリアルなインサイト(深層心理に隠された欲求)を発見するために極めて有効な手段と考えられます。
デプスインタビューの主な活用ケース
| 活用ケース | 主な目的・解決したい課題 | 得られる成果(具体的な発見) |
| 新商品開発・コンセプト設計 | アンケートでは分からない、顧客自身も気づいていない「潜在的なニーズ」を発見し、革新的な商品を開発したい。 | 「吸引力」ではなく「道具の使い分けの手間」が真の不満だと判明し、「オールインワン型」という新コンセプトが生まれる。 |
| 既存サービス・商品の改善 | データで分かる「機能が使われない」という現象の、根本的な「なぜ?」を特定し、的確な改善を行いたい。 | 「機能名が分かりにくい」「設定が複雑」といった、データには現れない心理的な障壁を特定できる。 |
| 顧客理解の深化 | 社内の思い込みで作られたペルソナやジャーニーマップを、現実の顧客の行動や感情に基づいてリアルなものにしたい。 | 顧客が「Instagramで知り、YouTubeで比較検討する」といった、想定外のリアルな行動や感情の変遷を把握できる。 |
| 専門的・秘匿性の高いテーマの調査 | 健康やお金、専門家の意見など、人前では話しにくいテーマについて、当事者の本音や実態を深く知りたい。 | 医師が「特定の副作用への管理不安」を抱えているなど、集団の中では出てこない率直で専門的な意見を引き出せる。 |
デプスインタビューの費用について
デプスインタビューの実施には、相応のコストがかかります。費用は主に、調査会社に支払う「企画・分析費用」と、参加者に支払う「謝礼」の二つで構成されます。
まず謝礼です。インタビューの時間や対象者の条件によって変わりますが、60分のインタビューで5,000円から10,000円程度が一般的な相場です。
ただし、医師や企業の役員といった専門的な知見を持つ人や、出現率の低い希少な条件を持つ人に対象者を依頼する場合には、より高額なインセンティブが必要になることがあります。
加えて、得られる情報の質はインタビュアーのスキルに大きく依存するため、経験豊富なモデレーターを確保することが成功の鍵となります。
そのようなこともあり、デプスインタビューを含む調査に関しては調査会社へ依頼をするケースも多くあります。
- 調査会社への企画・分析費用: 企画設計、対象者の募集(リクルーティング)、インタビューの実施、発言録の作成、分析、報告書の作成までを一括して依頼する場合、対象者1名あたり25万円程度からが一般的な目安となります。対象者の条件が希少であったり、分析内容が高度であったりすると、費用はさらに上がります。
- 対象者への謝礼(インセンティブ): 貴重な時間を割いて協力してもらう対象者には、謝礼を支払うのが通例です。60分程度のインタビューであれば5,000円~10,000円が相場ですが、医師や企業の役員といった専門的な知見を持つ方や、条件に合致する人が極端に少ない場合は、より高額な謝礼が必要となります。
デプスインタビューを活用する理由と必要性
「アンケート調査では高い評価を得たはずなのに、なぜか商品の売れ行きが伸び悩んでいる」多くの企業が一度は直面するこの謎を解き明かす鍵、それがデプスインタビューです。
「深層面接法」とも呼ばれるこの手法は、調査対象者とインタビュアーが1対1の形式で、通常60分から90分という時間をかけて深く対話する定性調査の一つです。
その目的は、単に「はい/いいえ」で答えられる質問や、選択肢から選ばれる表面的な意見を集めることではありません。
一人の人間の言葉にじっくりと耳を傾けることで、その人のライフスタイル、価値観、そして本人さえも意識していない行動の背景にある深層心理や潜在的なニーズを探り出すことにあります。
なぜデプスインタビューが必要なのか?
マーケティングリサーチの手法は、大きく「定量調査」と「定性調査」に分けられます。この二つの違いを理解することが、デプスインタビューの必要性を知る上で大切です。
- 定量調査(アンケートなど): 「何人が」「どのくらいの割合で」といった、量的なデータを収集するのに適しています。市場全体の傾向や規模を数値で把握できる一方、「なぜそのように回答したのか」という個々の理由まで深く知ることは困難です。
- 定性調査(デプスインタビューなど): 「なぜ」「どのようにして」といった、質的な情報を収集することに特化しています。行動の裏側にある動機や感情、文脈といった、数値では測れない情報を深く理解することができます。
例えば、ある商品の購入を見送った理由についてアンケートで尋ねた際、「価格が高いから」という回答が最も多かったとします。
このデータだけを見て「値下げをしよう」と判断するのは早計かもしれません。
デプスインタビューで同じテーマを深掘りすると、「価格そのものではなく、価格に見合うだけの高級感や特別感がデザインから感じられなかった」「自分の生活で使っているシーンが具体的に想像できなかった」といった、より本質的な課題が浮かび上がることがあります。
このように、デプスインタビューは定量調査で明らかになった現象の「なぜ?」を解明し、より的確な戦略を立てるためのインサイト(洞察)を提供してくれるのです。
失敗しない質問項目・テンプレ・聞き方のコツ
デプスインタビューの成果は、質問項目、インタビュアーのスキルや準備の質に大きく左右されます。
対象者が心を開き、自分でも気づいていなかった本音を語ってもらうためには、単に質問を並べるだけでなく、対話の流れを巧みに作り出す技術と、それを支える周到な準備が不可欠です。
ここでは、インタビューを成功に導くための具体的なコツと、すぐに活用できる質問項目・テンプレートの考え方を紹介します。
インタビューを成功に導く「聞き方」の三大原則
まず、インタビュー当日の心構えとして、以下の三つの原則を意識することが大切です。
- ラポール(信頼関係)の構築を最優先する
ラポールとは、互いに心が通い合い、安心して話せる状態を指します。インタビューの冒頭でいきなり本題に入るのではなく、天気の話や趣味の話といった簡単な雑談(アイスブレイク)から始め、場の緊張を和らげましょう。インタビュアーが真摯な態度で相手の話に耳を傾け、「なるほど」「そうだったのですね」と共感的に相槌を打つことで、対象者は「この人になら話しても大丈夫だ」という安心感を抱きます。 - 「なぜ?」の繰り返しを避ける質問術
理由を深掘りしようとするあまり、「なぜですか?」という質問を繰り返すと、相手は詰問されているように感じ、心を閉ざしてしまいます。理由を探りたい時は、より具体的な状況や感情を尋ねる質問に置き換えるのが効果的です。 - 沈黙を恐れず、考える「間」を大切にする
- 対象者が言葉に詰まった時、それは自身の記憶や感情を整理している貴重な時間です。焦って次の質問を投げかけたり、助け舟を出したりせず、相手のペースを尊重してじっくりと待ちましょう。心地よい沈黙は、対象者がより深い内省に入るのを助け、表層的ではない、本質的な言葉を引き出すきっかけになります。
以下、なぜの多様を避ける場合の推奨される聞き方の事例の紹介です。
| 避けるべき聞き方(NG例) | 推奨される聞き方(改善例) |
| 「なぜ、AではなくBを選んだのですか?」 | 「AとBを比較検討されていた時、最終的にBに心が動いたのは、どのような点でしたか?」 |
| 「なぜ、その機能が不便だと感じますか?」 | 「その機能を実際に使ってみて、どのような場面で『もっとこうだったら良いのに』と感じましたか?」 |
汎用的なインタビューフローと質問項目テンプレート
以下は、インタビュー全体の流れを設計する際の骨子となるものです。
この型を参考に、ご自身の調査目的に合わせて具体的な質問項目を肉付けしていくことで、スムーズで実りあるインタビューが実現できます。
| フェーズ | 主な目的 | 質問項目の考え方・質問例 |
| 導入(約5~10分) | ラポール形成と調査主旨の共有 | まずは簡単な自己紹介と雑談で場の空気を和らげます。「本日はありがとうございます。まず、普段の〇〇について、リラックスしてお聞かせください。」 |
| 行動事実の確認(約20分) | 具体的な利用状況や購買プロセスの把握 | 対象者の記憶に残りやすい、具体的な過去の体験に焦点を当てて尋ねます。「一番最近、〇〇というサービスを利用したのは、どのような状況でしたか?」「その時のことを、順を追って教えていただけますか?」 |
| 思考・感情の深掘り(約25分) | 行動の背景にある理由や価値観の探索 | 行動の各段階における思考や感情を深掘りします。「最終的にその商品に決めた時、どのような点が決め手になりましたか?」「購入後、実際に使ってみて、期待通りでしたか?それとも、少し違うと感じた点はありましたか?」 |
| 未来・理想のヒアリング(約5分) | 潜在ニーズや改善ヒントの発見 | 現状の不満から、未来への期待や理想の状態を探ります。「もし、〇〇があなたの理想通りに進化するとしたら、どのようなものになっていますか?」 |
| まとめ(約5分) | 全体の確認と謝意 | 話してもらった内容を簡潔に要約して認識のズレがないかを確認し、協力への感謝を伝えて終了します。「本日お話しいただいた中で、言い残したことや特に伝えておきたいことはございますか?」 |
前述の通り、このテンプレートはあくまで設計図です。
実際のインタビューでは、この流れを意識しつつも、対象者の話の流れや表情の変化を敏感に察知し、その場で生まれた疑問を臨機応応変に投げかける柔軟性が何よりも大切であることをお忘れなく。
目的別に解説!デプスインタビュー5つの成功事例

- 新商品開発やコンセプト設計への活用
- 事例1:新しい調理家電の開発「日常の物語からインサイトを発掘」
- 事例2: SaaS企業「データでは見えない利用の壁」サービス改善の深堀り
- 事例3: ECサイトのコンバージョン改善「カゴ落ちの本当の理由」
- 事例4: カスタマージャーニーマップの解像度向上「顧客の『心の旅路』を可視化」
- 事例5. 新薬開発におけるデプスインタビュー「真のアンメットニーズを探す」
- よくある質問
新商品開発やコンセプト設計への活用されるデプスインタビュー
現代の市場はモノやサービスで溢れかえり、単に機能が優れているだけでは、消費者の心をつかむことは困難になっています。
多くの企業が直面するのは、アンケート調査などを行っても、既存商品の延長線上にあるありきたりなアイデアしか集まらないという課題です。
デプスインタビューは、このような状況を打破し、人々の心に深く響く革新的な商品コンセプトを創造するための鍵となります。
| 項目 | 内容 |
| 課題 | アンケート調査では「もっと〇〇が欲しい」といった、顧客が既に自覚している「顕在ニーズ」しか把握できず、画期的なアイデアに繋がらない。 |
| 成功の理由 | デプスインタビューを通じて、顧客自身も言葉にできていない「潜在ニーズ」(無意識の不満や諦め)を、日常の物語から深く掘り起こせたから。 |
| 得られた効果 | 機能的な価値だけでなく、顧客の感情や価値観に根差した新しい商品コンセプトが生まれる。これにより、開発リスクを低減し、市場で真に共感される商品を設計できる。 |
このような効果を期待して実施されるデプスインタビューですが、以下に5つの成功事例をご紹介します。
なお、ここで紹介する事例は、特定の企業のケースをそのまま掲載したものではなく、活用のポイントを分かりやすくお伝えするために典型的な成功パターンを基に再構成したモデルケースです。
事例1:新しい調理家電の開発「日常の物語からインサイトを発掘」

デプスインタビューの真価は、顧客の「潜在ニーズ」の領域にあります。これは、日々の生活における無意識の行動や、言葉にならない不満、諦めの中に隠されています。
最初の事例は、ある家電メーカーが新しい調理家電の開発を検討している場合のデプスインタビューの例です。
アンケートでは「もっと多様な料理が作れる機能が欲しい」という顕在ニーズが挙がっています。さらにデプスインタビューで深堀りをします。
今回のケースでは、ある働く母親にデプスインタビューを行い、平日の夕食準備の様子を丁寧にヒアリング、「日常の物語」からインサイトの発掘を期待しています。
彼女の語る物語の中には、「レシピサイトを見て献立を考えるのが、実は一番のストレス」「食材を買い揃え、下ごしえをする時間がないことへの罪悪感」「結局いつも同じようなメニューになってしまうことへの諦め」といった、機能以前の、より根源的な苦悩が隠されているかもしれません。
このとき、彼女の潜在ニーズは「多機能な調理家電」ではなく、「献立を考える精神的な負担から解放されたい」「手間をかけずとも、家族に健康的で美味しい食事を提供できているという満足感を得たい」ということになります。
この深いインサイトに触れることで、開発の方向性は大きく変わります。
「専用アプリが1週間の献立を提案し、必要な食材リストも自動で作成。あとはボタン一つで調理が完了する」など、といった、一連の体験(エクスペリエンス)をデザインする、という新しいコンセプトが発掘されました。
| インタビューから得られた物語 | 潜在ニーズ | 新たなコンセプト(例) |
| 「レシピサイトを見て献立を考えるのが、実は一番のストレス」 「食材を買い揃え、下ごしえをする時間がないことへの罪悪感」 「結局いつも同じようなメニューになってしまうことへの諦め」 | 「献立を考える精神的な負担から解放されたい」 「手間をかけずとも、家族に健康的で美味しい食事を提供できているという満足感を得たい」 | 「専用アプリが1週間の献立を提案し、必要な食材リストも自動で作成。あとはボタン一つで調理が完了する」 |
このように、デプスインタビューは、顧客一人ひとりの「生活の物語」に深く耳を傾け、その物語の登場人物である顧客自身でさえ気づいていない本当の課題を発見するプロセスです。
ここで得られた共感が、市場で長く愛される商品やサービスの魂となるのです。
事例2: SaaS企業「データでは見えない利用の壁」サービス改善の深堀り

デジタルサービスの普及により、企業は顧客の行動データを容易に収集できるようになりました。
しかし、データは「顧客が何をしたか」という結果を示すのみで、「なぜそのような行動をとったのか」という動機や感情までは語ってくれません。
このデータと顧客心理の間に存在する溝を埋め、真に価値のあるサービス改善を実現するために、デプスインタビューは不可欠な役割を担います。
次の事例は、あるSaaS(法人向けソフトウェア)企業が、新しく開発したチーム内コラボレーション機能の改善を検討している場合のデプスインタビューの例です。
アクセス解析データでは、多くのユーザーがこの新機能を使っていない、という事実は判明しています。しかし、その根本的な理由はデータからは読み取れません。
今回のケースでは、この機能をほとんど利用していないユーザーを対象にデプスインタビューを実施し、利用に至らない背景にある「心理的な壁」や「具体的な状況」を明らかにすることを期待しています。
インタビューの結果、ユーザーが機能を使わない理由は一つではなく、複合的な要因が絡み合っていることが明らかになりました。
「機能の名称から、何ができるのかが直感的に分からなかった」「価値は理解できるが、初期設定が複雑そうで、試す時間的・精神的な余裕がなかった」「自分のチームでは既に別のツールで同じような作業をしており、わざわざ新しい方法に切り替える必要性を感じなかった」といった声が挙がりました。
このとき、ユーザーが抱える課題は、機能そのものの性能ではなく、「機能の価値が伝わっていないというコミュニケーションの壁」と「導入の手間が利用への大きな心理的障壁になっているというユーザビリティの壁」にあるというインサイトが得られました。
この深い顧客理解に基づいて、「機能名をより分かりやすいものに変更する」「機能の価値と簡単な使い方を1分で伝える動画チュートリアルを作成する」「初期設定のステップを大幅に簡略化する」といった改善を行うための情報として活用できます。
| インタビューから得られた定性情報 | 潜在ニーズ | 具体的な改善策(例) |
| 「機能名から何ができるか分からない」 「設定が面倒に感じた」 「既に別のツールを使っている」 | 「機能の価値が伝わっていない(コミュニケーションの壁)」 「導入の手間が利用への大きな心理的障壁になっている(ユーザビリティの壁)」 | 「機能名の変更とチュートリアルの作成」 「初期設定プロセスの簡略化」 |
事例3: ECサイトのコンバージョン改善「カゴ落ちの本当の理由」

3つ目の事例は、多くのユーザーが商品をカートに入れた後、購入手続きを完了せずに離脱してしまう「カゴ落ち」の問題に悩んでいたECサイトの例です。
アクセス解析データを見れば、「決済ページでの離脱が多い」という現象は把握できますが、なぜユーザーは購入の最後のステップでやめてしまうのでしょうか。その具体的な理由はデータからは分かりません。
ここでデプスインタビューが活きてきます。
実際にカゴ落ちを経験したユーザーにヒアリングを行うことで、データからは決して見えない、その瞬間の思考や感情のプロセスを追体験することを目的としました。
インタビューを通じて、「送料無料だと思っていたのに、最後の画面で追加料金が表示されて裏切られたような気持ちになった」「購入のために必須の会員登録フォームの項目が多すぎて、入力する気力が失せた」といった、具体的な心理的障壁が明らかになります。
これらの声は、単なる「離脱」というデータポイントに、ユーザーの失望や混乱、不満といったリアルな感情の文脈を与えてくれます。
この深い顧客理解に基づいて初めて、「送料無料になる条件を商品ページで明確に表示する」「会員登録なしでも購入できるゲスト購入の選択肢を目立たせる」といった、ユーザーの心に寄り添った的確な改善策を立案できるのです。
| インタビューから得られた定性情報 | インサイト(ユーザーの心理的障壁) | 具体的な改善策(例) |
| 「最後の画面で送料が追加され裏切られた気分になった」 「個人情報フォームの項目が多すぎて入力する気力を失った」 | 「不透明な料金表示への不信感」 「過剰な入力負荷による購買意欲の低下」 | 「送料条件の事前表示」 「ゲスト購入機能の拡充と入力フォームの簡略化」 |
事例4: カスタマージャーニーマップの解像度向上「顧客の『心の旅路』を可視化」

カスタマージャーニーマップは、顧客が商品を認知してから購入に至るまでの一連のプロセスを可視化し、優れた顧客体験を設計するための強力な設計図です。
しかし、その設計図の質は、どれだけ「現実の顧客の旅路」を正確に反映しているかにかかっています。
デプスインタビューは、このマップの解像度を飛躍的に高め、生きたツールへと進化させるための鍵となります。
次の事例は、ある高級オーディオ機器メーカーの例です。
社内にはカスタマージャーニーマップが存在したものの、それは企業のマーケティングファネル(広告→Webサイト→購入)を基にした憶測で描かれており、現実の顧客行動と乖離していました。
そのため、どのタイミングで、どのような情報を顧客に届けるべきか、効果的な施策を立てられずにいました。
そこで、企業の思い込み(想像)ではなく、顧客のリアルな体験に基づいたマップを作成するためにデプスインタビューを実施。最近商品を購入した顧客を対象に、購入に至るまでの道のりを、最初のきっかけから順を追って語ってもらいました。
インタビューの結果、企業が想定していた直線的な道のりとは全く異なる、偶発的で感情に満ちたプロセスが明らかになりました。
ある顧客は、「好きなYouTuberが動画の背景で使っているのを見て、何となく興味を持った」と語り、認知の起点が企業の広告ではなかったことが判明。
また、「高価な買い物だから失敗したくない」という強い不安から、専門レビューサイト、個人のブログ、SNSなどを数週間にわたって行き来し、情報を収集していました。
そして、購入の最後の決め手はスペックではなく、「あるユーザーがブログに書いていた『毎日の生活が豊かになった』という一文への共感だった」と明かしてくれました。
このとき、顧客の旅路は、企業がコントロールするプロセスではなく、「第三者のリアルな使用シーンが起点となり、スペックだけでなく感情的な共感によって意思決定がなされる、複雑な物語である」というインサイトが得られました。
これらの質的な情報によって、カスタマージャーニーマップは単なるプロセスの流れ図から、顧客の感情の機微までを描き出す、色彩豊かな「物語」に変わります。
この解像度の高いマップから、「YouTuberとの連携を強化する」「ユーザーのリアルな使用感を伝えるコンテンツを増やす」といった、顧客の心に寄り添った施策の作成が可能となります。
| インタビューから得られた定性情報 | インサイト(ユーザーの心理的障壁) | 具体的な改善策(例) |
| 「好きなYouTuberの動画で認知」 「高価な買い物への不安から、数週間ブログやレビューを比較」 「決め手は他のユーザーの『生活が豊かになった』という共感の一文」 | 「企業の広告ではなく、第三者のリアルな使用シーンが認知の起点」 「購入の意思決定は、スペックではなく感情的な共感に大きく左右される」 | 「インフルエンサーとの連携強化」 「スペック訴求だけでなく、ユーザーの『体験談』を伝えるコンテンツを拡充」 |
このように、カスタマージャーニーマップの作成においてデプスインタビューを用いることは、顧客の足跡をたどるだけでなく、その心の旅路に寄り添い、顧客の感情に共感することで、心に残る体験をデザインできます。
事例5. 新薬開発におけるデプスインタビュー「真のアンメットニーズを探す」

新薬開発のプロセスにおいて、最も重要かつ困難な意思決定の一つが、開発のごく初期段階で行われます。
企業が保有する有望な化合物候補を、どの疾患領域の、どのような患者さんのために開発していくべきか。この最初の「的」を定める選択が、その後の10年以上にわたる研究開発の成否を左右します。
この重大な岐路において、世界的な権威であるKOLへのデプスインタビューは、進むべき道を示す極めて重要な対話となります。
この事例は、ある製薬会社が、新しい作用機序を持つ化合物候補を保有していた開発初期段階のケースです。
この化合物の可能性は広いものの、どの疾患をターゲットに莫大な開発投資を行うべきか、社内では決めかねていました。
市場データだけでは、臨床現場で医師や患者が本当に困っている「真のアンメットメディカルニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)」を特定するには不十分でした。
そこで、関連領域の世界的権威であるKOLの医師にデプスインタビューを実施。目的は、統計データからは読み取れない、臨床現場のリアルな課題と将来の治療の方向性について、深い洞察を得ることでした。
インタビューでは、「先生が日々の診療で、既存の治療法に最も限界を感じるのは、どのような患者さんですか?」といった、KOLの実感に基づく問いかけがなされました。
その結果、「多くの新薬が競争しているA疾患も重要だが、臨床現場で本当に困っているのは、有効な治療選択肢が少ない関連疾患Bであり、B疾患では、既存薬は副作用が強く、多くの患者さんが治療継続を断念している」という、極めて重要な指摘が得られました。
この対話から、「市場の主戦場(有効性競争)とは別の場所に、真に解決すべき課題が存在する」「医師は『わずかに高い効果』よりも『格段に優れた安全性』を求めている」という、開発戦略の根幹を成すインサイトが明らかになりました。
このKOLの洞察は、製薬会社がターゲットを競合の多いA疾患から、よりニーズの高い関連疾患Bへと転換するきっかけとなり、開発戦略全体の最適化に大きく貢献する可能性を示しました。
| インタビューから得られた定性情報 | インサイト(ユーザーの心理的障壁) | 具体的な改善策(例) |
| 「現場では既存薬の副作用管理が一番の負担」 「ある関連疾患では治療選択肢が古く、患者のQOLが著しく低い」 「安全性が高い薬があれば、第一選択薬になる」 | 「市場の主戦場とは別の場所に、真のアンメットメディカルニーズが存在する」 「医師は『新しい効果』以上に『管理しやすい安全性』を求めている」 | 「競合の多い疾患領域から、よりニーズの高いニッチな関連疾患へと開発ターゲットを転換」 「開発の主要評価項目を『有効性』だけでなく『安全性・QOL向上』にも設定」 |
デプスインタビューに関するFAQ
- Q良いデプスインタビューの事例に共通する点は何ですか?
- A
成功しているデプスインタビューの事例には、いくつかの共通点があります。第一に、調査目的が明確であることです。何を知りたいのか、得られた結果をどう活かすのかが具体的であるほど、インタビューの質は高まります。第二に、対象者の選定が的確であること。調査目的に合致した人物に話を聞くことで、価値のあるインサイトが得られやすくなります。そして最も重要なのが、表面的な発言の奥にある「なぜ?」を深掘りできている点です。例えば「この商品を買った」という事実だけでなく、「なぜそれを買おうと思ったのか」「買う瞬間にどんな気持ちだったのか」という背景にある思考や感情のプロセスを明らかにできている事例は、優れた事例と言えます。
- Q調査会社が公開している事例は、自社の参考にしても良いのでしょうか?
- A
はい、大いに参考になります。多くの調査会社がWebサイトで公開している事例は、デプスインタビューでどのような課題が解決できるのかを具体的に理解するための優れた教材です。特に注目すべきは、「どのような課題があったのか」「なぜデプスインタビューという手法を選んだのか」「その結果、どのようなインサイトが得られ、どんなアクションに繋がったのか」という一連の流れです。これらの事例を読むことで、自社の課題にデプスインタビューを適用する際の具体的なイメージを掴むことができます。ただし、事例はあくまでその企業のケースです。自社の状況に合わせて、目的や対象者を適切に設定することが成功の鍵となります。
- QBtoCとBtoBのデプスインタビューで、質問や進め方に違いはありますか?
- A
はい、対象者が異なるため、アプローチに明確な違いがあります。
BtoC(一般消費者向け)のインタビューでは、個人のライフスタイル、価値観、感情といったパーソナルな側面に焦点を当てます。購買決定の背景にあるのは、個人の好みや自己表現、家族への想いなど、情緒的な動機であることが多いためです。
一方、BtoB(法人向け)のインタビューでは、対象者は組織の一員として合理的な判断を下します。そのため、個人の好みだけでなく、「費用対効果(ROI)」「業務効率の改善」「組織内での承認プロセス」「複数の部署との連携」といった、組織的な課題や合理的な判断基準について質問する必要があります。また、意思決定者が一人とは限らないため、対象者の組織内での役割や決裁権限を理解した上で話を進めることが鍵となります。
信頼できる情報源と関連リソース
市場調査の知識をさらに深めるためのリソースとおすすめ記事、信頼できる公式情報のリンク集をご紹介します。
デプスインタビューの事例解説|目的別の具体的な活用法まとめ
この記事で解説してきた、デプスインタビューを成功に導くための重要なポイントを以下にまとめます。今後の調査を計画する際のチェックリストとしてご活用ください。
なお、本記事では具体的な活用事例を中心に解説しましたが、デプスインタビューのより詳細な企画設計や、得られた発言を分析して報告書にまとめる方法まで学びたい場合は、【実践ガイド】デプスインタビューの企画設計から分析レポート作成までを合わせてお読みいただくことで、さらに理解を深めることができます。
- デプスインタビューは1対1で対象者の本音を探る定性調査手法
- 定量調査では見えない「なぜ?」という行動の背景を明らかにできる
- 消費者が自覚していない無意識のニーズやインサイトの発見に繋がる
- 成功の質はインタビュアーのスキルに大きく依存する点が特徴
- 対象者との信頼関係であるラポールの構築が成功の第一歩となる
- 「なぜ?」の繰り返しは避け、間接的な質問で本音を引き出す
- 調査の成否は目的の明確化など事前の準備段階で大きく左右される
- 作成したインタビューフローは当日の流れに応じて柔軟に運用する
- 過去の具体的な体験に焦点を当てた質問を投げかけることが有効
- 新商品開発では消費者の言葉にならない不満や課題を発見できる
- サービス改善ではデータだけでは不明なユーザーの離脱理由がわかる
- 顧客の感情の動きを捉えカスタマージャーニーマップを精緻化する
- 健康やお金などプライベートで話しにくいテーマの調査に最適
- 製薬会社の医師への調査など専門領域で深く活用されている
- 手間はかかるがマーケティングの質を根本から変える力を持っている
