アメリカのバイオ医薬企業BioAtla社は、2025年7月にスペイン・バルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)消化器がん会議において、新規の二重条件付きバイスペシフィック抗体「BA3182」に関する初の臨床試験データを発表しました。
この治療薬は、従来の治療に反応しなかった進行性腺癌患者を対象にした第1相用量漸増試験の一環で評価されています。
報告によれば、BA3182は安全性が高く、抗腫瘍効果の初期兆候も見られました。特に、肺・大腸・乳がんなどさまざまな固形腺癌に対して、がん細胞のみに選択的に作用する仕組みが注目されています。
BA3182の臨床試験が示す新たながん治療の展望

- BA3182の構造と作用機序
- 第1相試験の概要と治療成績
- 投与方法と副作用の傾向
- 今後の開発方針と課題
BA3182の構造と作用機序
BA3182は、EpCAMとCD3という2種類の標的に条件付きで結合する「CAB(コンディショナリー・アクティブ・バイオロジクス)」技術を用いたバイスペシフィック抗体です。この技術は、腫瘍の酸性環境においてのみ抗体が活性化するように設計されており、正常組織では極めて低い結合活性しか示しません。
このような選択的な結合性により、従来のEpCAM標的治療で問題となっていた「オンターゲット・オフトゥーマー毒性」を回避できる可能性があります。EpCAMは腺癌で高頻度に発現しており、治療標的として極めて有望です。
さらに、BA3182はT細胞上のCD3と腫瘍細胞上のEpCAMに同時に結合することで、免疫シナプスを形成し、T細胞を活性化してがん細胞の破壊を誘導します。この機構により、複数の腺癌タイプに対して汎用的な効果が期待されています。
第1相試験の概要と治療成績
現在進行中の第1相臨床試験では、BA3182の用量漸増が行われており、2025年6月時点で計39名の患者が登録されています。これらの患者は、平均で3回以上の前治療歴がある、いわば治療抵抗性の高い症例群です。
観察された主な治療効果は以下の通りです:
- 腫瘍縮小が確認された患者:5名
- 大腸がん(-8%、-10%)
- 乳がん(-11%)
- 胆管がん(-13%)
- 非小細胞肺がん(-25%) - 病勢安定期間の延長:大腸がん2例にて、それぞれ11か月および14か月の無増悪期間が確認されました。
これらの初期データから、BA3182がいくつかの腺癌に対し腫瘍コントロールをもたらす可能性が見えてきました。
投与方法と副作用の傾向
BA3182は、点滴(IV)および皮下投与(SC)の2つの方法で投与されています。IVでは0.0026〜0.032mg、SCでは0.032〜0.6mgの範囲で週1回投与され、現在はSCで1.2mgの用量に到達しつつあります。
副作用に関しては、以下のような傾向が見られました。
- 一過性で低グレードの副作用が大半を占める
- サイトカイン放出症候群(CRS)は、IV投与の初回で一部に発生(グレード1~2)したものの、トシリズマブの予防投与で軽減
- 一時的な肝酵素上昇(グレード1〜3)はあったものの、治療継続には支障なし
こうした安全性のプロファイルは、がん免疫治療薬としては良好な部類に入ると考えられます。とりわけ、SC投与による血中濃度の安定性は、患者への負担軽減につながる点でも注目されます。
今後の開発方針と課題
BA3182は今後も第1相試験における用量漸増が継続され、2025年後半には最新のデータが公表される予定です。この進展により、推奨される第2相試験の用量(RP2D)が明確になり、より広範囲な患者層への適用が検討される段階に入ると予想されます。
ただし、課題も存在します。
- 対象患者数がまだ限られているため、統計的有意性を評価するにはさらなる症例が必要です。
- 多様な腺癌種を対象としているため、適応拡大の戦略設計が重要となります。
- 長期的な有効性と安全性の検証が不可欠です。
このような課題を踏まえた上で、引き続き慎重かつ段階的な開発が求められます。
BioAtla社のBA3182がESMOで初の臨床データを発表
- BA3182は、EpCAMとCD3に二重選択的に結合する構造により、高い腫瘍選択性を発揮します。
- 初期データでは、重度の副作用が少なく、複数のがん種で腫瘍縮小が確認されました。
- 点滴よりも皮下投与の方が薬剤動態が安定し、安全性も高い傾向があります。
- 用量漸増試験は現在も継続中であり、さらなるデータによって臨床応用の可能性が広がると考えられます。
- 今後の課題としては、対象患者の拡大、安全性の長期追跡、適応がん種の特定などが挙げられます。
出典・参照文献
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