近年、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)の治療領域において、革新的な動きが加速しています。中でも注目されているのが、アルナイラム社が開発したRNAi治療薬「Amvuttra(ブトリシラン)」のFDA承認です。これにより、AmvuttraはATTR-CMに対する初のRNAi治療薬として、新たな選択肢を提供することになりました。
この承認は、第3相HELIOS-B試験で確認された有効性と安全性に基づいており、心血管リスクの軽減や生活の質の改善といった臨床的メリットが明確に示されています。また、すでに承認されていたhATTR-PNへの適応に加え、今回の承認拡大により1剤で2つの病態に対応可能となりました。
一方で、ATTR-CM治療市場では、ファイザーのVyndaqel(タファミジス)が長年にわたり主流となってきました。さらに近年では、BridgeBio社のAttruby(アコラミディス)も加わり、TTR安定化を作用機序とする新薬との競争が激化しています。
この記事は、以下のプレスリリースを参照しています
記事のポイント
- Amvuttraの作用機序とATTR-CMに対する位置づけ
- ファイザーのVyndaqelとの市場競争状況
- RNAi治療とTTR安定化薬の違い
- ATTR-CM治療薬の最新承認情報と今後の展望
アルナイラム社のAmvuttra(ATTR-CM)が承認

- AmvuttraがATTR-CMで初のRNAi治療に
- HELIOS-B試験で示された有効性と安全性
- 承認拡大でATTR-CMとhATTR-PNに対応
- 投与方法と年間スケジュールの利便性
AmvuttraがATTR-CMで初のRNAi治療に
Amvuttra(一般名:vutrisiran)は、ATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)に対して、米国で初めて承認されたRNAi治療薬です。
RNAi(RNA干渉)は、特定の遺伝子の働きを抑える技術であり、Amvuttraはこれを応用し、病気の原因となるTTR(トランスサイレチン)タンパクの産生を抑制します。
ATTR-CMでは、TTRが変性してアミロイドと呼ばれる異常な物質になり、心臓に蓄積されていきます。これが心機能の低下を引き起こすため、TTRの生成を根本的に減らす治療法は大きな意義があります。
従来はTTRを安定化させる薬が主流でしたが、AmvuttraはTTRそのものの生成を抑えるという点で、まったく異なる作用機序を持っています。
そのため、AmvuttraはATTR-CMに対するRNAi治療としての新しい地位を確立し、従来治療とは異なる選択肢を医療現場に提供しています。
HELIOS-B試験で示された有効性と安全性
HELIOS-B試験は、AmvuttraのATTR-CMに対する有効性と安全性を評価するために実施された第3相臨床試験です。
この試験では、Amvuttraが心血管死亡および再発性心不全イベントのリスクを有意に減少させたことが確認されました。
具体的には、プラセボ群と比較して、36カ月間の二重盲検期間中に全体で28%のリスク低減が見られました。また、42カ月までの延長解析では死亡率が最大36%減少する結果となり、明確な臨床的ベネフィットが示されました。
さらに、NT-proBNPやトロポニンIといったバイオマーカーの改善も早期から確認されており、心臓機能の維持や生活の質の向上にも寄与する可能性が示されています。
安全性については、主に軽度から中等度の副作用にとどまり、特に重篤な安全性上の問題は認められていません。
このように、HELIOS-B試験はAmvuttraの信頼性を裏付ける重要なエビデンスとなっています。
承認拡大でATTR-CMとhATTR-PNに対応
Amvuttraは、もともとhATTR-PN(遺伝性トランスサイレチン型アミロイドポリニューロパチー)の治療薬として2022年に米国で承認されていました。
今回、FDAはその適応範囲をATTR-CMにまで拡大し、1剤で2つの病態に対応可能となりました。
ATTRには2つの主な症状領域があり、ひとつは神経系の障害(hATTR-PN)、もうひとつは心臓への影響(ATTR-CM)です。これまではそれぞれに対応する薬剤が分かれていましたが、Amvuttraは両方に有効性を示した初の治療薬として、治療の一貫性と利便性を高めています。
特に、両方の症状を併発するケースも多いため、1剤で包括的な管理が可能になることは、医療者にとっても患者にとっても重要な進展です。
もちろん、使用にあたってはそれぞれの症状や病状に応じた医師の判断が必要です。
投与方法と年間スケジュールの利便性
Amvuttraは、年4回の皮下注射によって投与される治療薬です。
この投与スケジュールは、患者の生活に与える負担を最小限に抑えることを目的として設計されています。
従来のATTR治療薬には、経口投与が可能なものもありますが、毎日の服薬管理が必要となるため、服薬アドヒアランスに課題を抱えることが少なくありません。
それに対してAmvuttraは、医療機関で3カ月ごとに1回注射を受けるだけで治療が継続できるため、患者の時間的・心理的負担を軽減しやすいというメリットがあります。
ただし、注射は医療従事者による実施が必要なため、通院が難しい方にとっては不便さを感じるケースもあるかもしれません。
そのため、患者ごとの生活環境や希望に応じた柔軟な治療選択が求められます。
アルナイラム社、ATTR-CMでファイザーと対峙
- Vyndaqel(ファイザー)のシェアと実績
- 新規承認薬Attruby(BridgeBio)との比較
- RNAi vs TTR安定化:作用機序の違い
- アルナイラムの販売戦略と市場見通し
Vyndaqel(ファイザー)のシェアと実績
Vyndaqel(一般名:タファミジス)は、ATTR-CM治療における先駆的な医薬品として、2019年に米国で承認されました。ファイザーが開発・販売しており、ATTR-CMに対する治療薬として長年、実質的に唯一の選択肢となっていました。
この製品はTTR(トランスサイレチン)タンパクを安定化させることで、異常なアミロイド形成を抑制します。投与は経口で行われ、服用のしやすさもあって多くの患者に受け入れられてきました。
実際、2024年の売上は全世界で55億ドルに達し、前年比で60%の成長を記録しています。これはATTR-CMというニッチな領域でありながら、確固たる市場支配力を示す数字です。
しかしながら、病態進行を完全に止められるわけではなく、他の作用機序を持つ新薬の登場により、その市場独占状態は徐々に変わりつつあります。
新規承認薬Attruby(BridgeBio)との比較
Attruby(一般名:アコラミディス)は、BridgeBio社が開発したATTR-CM治療薬で、2024年11月に米国で承認されました。
この薬剤もTTR安定化を目的とする経口治療薬であり、ファイザーのVyndaqelと同じく、TTRタンパクの変性を抑える作用を持ちます。
大きな違いは、ATTRibute-CM試験において心血管関連の入院リスクを50%も減少させた点にあります。これは従来薬と比較して、臨床的な有効性が高い可能性を示しています。
一方で、長期的な実績はまだ乏しく、Vyndaqelのような十分な安全性データやリアルワールドエビデンスは今後の蓄積を待つ必要があります。
このように、AttrubyはVyndaqelの後発ながらも、より大きな臨床効果を示した新しい選択肢として注目されています。
RNAi vs TTR安定化:作用機序の違い
ATTR-CM治療においては、TTRというタンパク質の異常な構造変化をどう抑制するかが治療戦略の中心です。現在の治療薬には、大きく2つのアプローチがあります。
ひとつはVyndaqelやAttrubyのような「TTR安定化薬」、もうひとつがAmvuttraに代表される「RNAi治療薬」です。
TTR安定化薬は、すでに体内で作られたTTRが異常に折りたたまれるのを防ぐことで、アミロイド化を抑えるという仕組みです。
一方でRNAi治療薬は、TTRそのものの生成を抑えるという上流の段階に介入します。この点で、RNAiは病気の根本原因に直接働きかけるアプローチとされています。
ただし、RNAi治療は医療機関での注射が必要となるため、患者にとっての利便性や導入のハードルはやや高いと感じられる場合もあります。
逆に、TTR安定化薬は毎日服用する必要があるものの、服用自体は簡便です。
アルナイラムの販売戦略と市場見通し
アルナイラムは、RNAi治療薬のリーディング企業として、ATTR-CM市場における急成長を狙っています。今回のAmvuttraの適応拡大により、ATTR-CMとhATTR-PNの両方に対応する唯一の治療薬を持つ企業となりました。
すでにhATTR-PNにおけるAmvuttraの売上は年間約9億7,000万ドルに達しており、2025年にはATTR-CMを含むTTRポートフォリオ全体で16億~17億ドルの売上を見込んでいます。
また、3カ月に1回の投与という利便性や、患者支援プログラム「Alnylam Assist」の活用により、アクセス障壁の低減にも取り組んでいます。
さらに、他社との差別化を強調するために、臨床的アウトカムに連動したバリューベース契約の導入にも積極的です。
ただし、競合薬との比較評価や医師の治療判断によっては、導入が進みにくい医療機関もある可能性があるため、地域ごとのアプローチも重要となります。
Amvuttra承認で加速するアルナイラムとファイザーのATTR-CMでの競争
- AmvuttraはATTR-CMに対する初のRNAi治療薬である
- アルナイラム社が開発しFDAの承認を取得した
- RNAi治療はTTRタンパクの生成自体を抑制する仕組みである
- 従来の治療はTTRを安定化させる方式が主流だった
- HELIOS-B試験でAmvuttraの有効性と安全性が確認された
- 心血管死や心不全イベントのリスクを有意に減少させた
- ATTR-CMとhATTR-PNの両方に対応する初の治療薬となった
- 投与は年4回の皮下注射で利便性が高い
- 医療機関での投与が必要な点は注意が必要である
- ファイザーのVyndaqelはATTR-CM治療で長年市場を支配している
- VyndaqelはTTR安定化を作用機序とする経口薬である
- Attruby(BridgeBio)はVyndaqelに続く新しいTTR安定化薬である
- Attrubyは入院リスクを大幅に減少させる効果を示した
- RNAiとTTR安定化薬では介入する病態の段階が異なる
- アルナイラムは販売戦略として患者支援プログラムも展開している
